
変化の激しい時代、現状維持という選択は生き残りすら危うい事態を招きかねない。そして自社のポジションニングを変更するには、パーパス(存在意義)を見出し、組織文化を変えることが不可欠である。では、どんな企業がそれを実現しているのか。筆者らは綿密な調査を実施して、過去10年間で最もインパクトの大きい変革を遂げた、トップ20企業のランキングを作成した。
2012年、デンマークのエネルギー最大手企業ドング・エナジーは、天然ガス価格の90%下落という事態に直面して財務危機に陥り、S&Pによる信用格付けは「ネガティブ」に引き下げられた。同社取締役会は、レゴの元幹部だったヘンリク・ポールセンを新たなCEOに迎えた。
リーダーによっては、ここで「危機管理モード」に入り、天然ガス価格が回復するまで従業員を一時解雇するなどの措置を講じるかもしれない。しかし、ポールセンは、このタイミングを抜本的な改革の好機と捉えた。
「まったく新しい会社にする必要性を、目の当たりにしました」と、ポールセンは言う。彼は社名をエルステッドに変更した。電磁気学の原理を発見したデンマークの伝説的な科学者、ハンス・クリスチャン・エルステッドにちなんだ名だ。
「大々的な変革が求められていました。新しい中核事業を立ち上げて、なおかつ持続的成長が見込める新分野を見つける必要があったんです。気候変動への対処という新たな潮流に目を向けた我々は、ある思い切った決定を真剣に下した、数少ない企業の一社となりました。"黒いエネルギー"から"緑のエネルギー"へと舵を切る、最初の企業になろうという決断です」
このような戦略的動機――つまり組織を奮い立たせるような、高次のパーパス(商業上の目標を超えた存在意義)に根差した使命の確立は、「トランスフォーメーション20」の企業に共通して見られるものだ。これは、当社イノサイトが新たな調査によって特定した、世界で最も変革を成し遂げた20社である。
我々のこの見方を補強するように、米国経済団体ビジネス・ラウンドテーブルは2019年8月、181名のCEOによる署名済みの声明を発表した。いわく、株主への奉仕は、もはや企業の主たる目的にはなりえない。目指すべきは社会への奉仕であり、そのためにイノベーションを推進し、すべての人々に健全な環境と経済的チャンスを提供するために、本気で取り組む必要があるとしている。
本調査の目的は、過去10年間で最もインパクトの大きなビジネス変革を実現した、グローバル企業を特定することである。分析手法は2017年の調査で用いたものを踏襲した。当社の調査チームは、S&P500および『フォーブス』誌のグローバル2000に属する全企業を、以下3つの観点からふるいにかけた。
1. 新規成長:新たな製品・サービス、新たな市場、新たなビジネスモデルの創出でどれほど成功したか。ここには我々の最重要の指標が含まれる。すなわち、中核ではない新規成長分野から生まれた収益の割合だ。
2. 中核事業の再ポジショニング:従来の中核事業を、その市場における変化や破壊の波にどれほどうまく適応させ、レガシー事業に新たな命を吹き込んだか。
3. 財務:財務業績と株価の動きが好調だったか。または、損失や低成長を被っていた事業を再生して回復軌道に戻したか。これらの指標として、変革推進期(各社で時期は異なる)における売上高の年平均成長率(CAGR)、利益率、株価の年平均成長率の3点に着目した。
調査の第一段階では、52社が戦略的変革で著しい進展を遂げていた。手元のデータ群における上場企業のわずか3%である。この二次選考のリストを、イノサイト社内のパートナーらによる投票で最終候補27社に絞り込んだ。三次選考では、経営学の専門家らで構成される審査会が、以下の20社をトランスフォーメーション20に選出し、ランキングを決定した(本稿末「審査会メンバー」を参照)。