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暗号通貨ブームの終焉とともに、ブロックチェーンという単語を目にする機会は減少した。だが実際には、ブロックチェーン技術はあらゆるビジネスを変革する可能性を秘めており、すでに多くの企業が恩恵を受けている。その一方で、安易に導入したがゆえに、みずからをリスクに晒している企業もある。ブロックチェーン技術がもたらすビジネスチャンスを掴みつつ、リスクを最小化するために、5つの典型例から見えてきた教訓を示す。


 ハイテク界でブロックチェーンが一気に関心を集めたのは10年前、ビットコインのリリースがきっかけであった。初期の紹介のされ方から、多くのビジネスリーダーはブロックチェーンと暗号通貨を同じ意味に捉えた。実際には、ブロックチェーンの提供価値は、はるかに幅広い。

 その最も基本的な機能は、2者以上の人や企業やコンピュータが、デジタル環境で、仲介者(銀行や第三者プラットフォームなど)を挟まずに価値を交換できるようにするものだ。言い換えれば、ブロックチェーンは、デジタルエコノミーにおける取引の条件を再定義したわけだ。

 次のような例を考えてみよう。車両保険のブロックチェーンによって、契約の詳細と規約を保管し、第三者請求を自動的に処理することで、効率を高め、不正を減らすことができる。病院のブロックチェーンによって、診療情報を記録し、認定医療機関とオンデマンドで共有できる。フランス産ワインを原産地のブドウ園にまで、あるいはダイヤモンドを鉱山にまでさかのぼって管理履歴を記録し、偽造を減らすことも、ブロックチェーンならば可能だ。

 上記を含めて多くのソリューションが、すでに存在する。とはいえ、実験は広範に行われているものの、ブロックチェーンは依然として発展途上の若い技術だ。

 今日行われている実験は往々にして、ブロックチェーンを形成する中核要素の一部しか使っておらず、ほかの要素には目を向けていない。特に、トークンを組み込んだブロックチェーンの事例は少なく、それらの技術構造は――元々のブロックチェーンの設計意図とは異なり――分散化がほとんどされていない。

 これは実質的に、次のことを意味している。今日利用できるブロックチェーンのソリューションの多くは、単一の企業か小規模な企業グループによって所有・運営され、承認された者のみが参加できるということだ(対照的に、ビットコインのブロックチェーンは単一の所有者は存在せず、誰でも望めば参加できる)。

 ビジネスリーダーは、この技術を実験するにあたり、中央集権的な運営方法に頼ることで、セキュリティ、コンセンサス、身元と匿名性といった数々のやっかいな問題を避けてきた。だが、中央集権モデルは、ブロックチェーンの技術、経済性、運営のコントロールをめぐる、新たなリスクも生む。そこには、デジタル環境でつくられる、以下4つの「ビジネス通貨」が絡んでくるからだ。

(1)当該のソシューションがアクセスし、収集し、生成する、参加者および取引に関する「データ」

(2)商取引に参加する条件を定義する「契約」

(3)当該市場への「アクセス」

(4)ブロックチェーンを成立させている「技術」

 1つの企業または企業連合が、中央集権型のブロックチェーンを構築するとしよう。支配者である彼らは理論上、その「技術」を所有し、「データ」を獲得して中央管理し、ソリューションに誰を「アクセス」させるか・させないかをコントロールし、「契約」の条件を決めることができるわけだ。

 もちろん、すべてのブロックチェーンに強権的な所有者がいるわけではなく、すべての所有者が長期的な支配を望むわけではない。ビジネス通貨をコントロールする単一の所有者や所有グループによって、高度に中央集権化されているソリューションもあれば、それほど支配力が強くないものもある。

 ビジネスリーダーにその違いをわかりやすく把握してもらうために、筆者らはブロックチェーンを以下の5つの典型に分類した。中央集権化の度合いに応じて定義したものである。