自分でやることにこだわらず、周囲の助けをうまく借りる
いまや日常生活の一員となった掃除ロボットも、同じ考えで作られている。掃除ロボットの機構は、真っすぐに進み、壁や障害物にぶつかれば方向転換するというシンプルなものだ。単体だと直線走行しかできないが、壁や障害物にぶつかりながら、それを上手に利用することで、部屋の隅々まで掃除してくれる。
「大事なのは、自分の力だけで何とかしようとするこだわりを捨てて、うまく周囲の環境や変化を味方につけるよう、発想を転換することです。目の前の変化にうまく対峙し、素早くチャンスに変えられるような、敏捷性や即興性が求められます」
そして、豊橋技術科学大学のICD-LABが開発している2つのタイプの<弱いロボット>を、映像をまじえて紹介した。1つは「iBones」(アイボーンズ)。ロボットが道行く人にティッシュを配ろうとするが、もじもじしている間にみな足早に通り過ぎてしまい、なかなか配れない。そのオドオドとした様子に愛嬌があり、やがて気持ちが揺さぶられた人が、自分から近づいてティッシュを受け取ってしまう(動画はこちら)。
もう1つが、「ゴミ箱ロボット」。ゴミ箱の形をしていながら、物を拾い上げる機能がついてないために、ゴミの近くで困ったようによたよたしている。その様子がなんとも愛らしく、周りの人が思わず救いの手を差し伸べて、ゴミを入れてあげる(動画はこちら)。
「人は、何かやろうとしてできない様子や、困ったような様子を見かけて、そこに共感や愛情を抱くと、どうにか助けようとします。これらのロボットは、人間のそうした習性を利用しています」。ただ、弱さのアピールがあまりあざといようでは見抜かれてしまうけれど、と、岡田教授は笑う。
「このように、お互いの弱さを引き出しながら、その強みを引き出し合うような関係を作り出すことが、組織や社会のレジリエンスを高めていくことにつながります」
最後に、岡田教授は、ビジネスリーダーが自身や職場のレジリエンスを高めるポイントを挙げた。
1つ目は、楽観的であること。楽観的であれば、多少の困難や壁にぶつかっても、現実を前向きに受け止めることができる。
2つ目が、適応力。目の前の困難や壁を味方にして、うまくチャンスに転じられること。
3つ目が、即興性や敏捷性。綿密にプランや計画を立てるのではなく、その場に応じた対策を即興で考えて素早く対処できる。
そして4つ目が、愚直さや素直さだという。
「ですから、リーダーは率先して、弱みや苦手なところをメンバーにさらけ出したほうがいいんです。それがフォロワーの強みを引き出すことになり、行動を起こしてくれます。結果として、チームのレジリエンスが高まるのです」
レジリエンスと聞けば、来るべき困難に備えて、自らの肉体や精神を鍛え、より強靭にする、あるいは、リーダーは率先垂範してその手本を示し、メンバーにも厳しく教育する、といったストイックなイメージを抱きがちだ。
しかし、岡田教授は、お互いが強みや弱みを認識し、補い合うことで組織や社会全体のレジリエンスを高めるべき、という道を示してくれた。もっと身近でフレンドリーなツールとして、レジリエンスを学んではいかがだろうか。
2019年11月20日、グローバルビジネスハブ東京にて開催。
※本イベントで行われた楠木建氏と廣瀬俊朗氏の鼎談編は、こちら。