●エンゲージメントから当事者意識へ

 社員を大切にする姿勢を表現するために、社内のカフェテリアで無料のランチを提供したり、フィットネスセンターや託児施設、瞑想ルームを用意したりする企業は多い。それにより、社員の快適性が高まる場合があることは事実だ。しかし、社員のエンゲージメントを高め、ひいては幸福感を高める効果は乏しい。

 この類いの福利厚生制度に頼るよりも、誰もが活躍できる職場環境を築くことに力を入れたほうがよい。

 全員が潜在能力を花開かせるチャンスを得られるように配慮しよう。会社のガバナンス・システムの下、自分に直接関係のある問題を自分で解決する権限を持たせることは、その最初の一歩だ。人は自分の仕事に直接影響を及ぼす意思決定に参加できるとき、職場での当事者意識が高まり、エンゲージメントも強まる。

 私が以前関わった会社の例を紹介しよう。その会社では、全社規模の調査により、社員の過半数が仕事に対して愛憎半ばする思いを抱いていて、あまり権限を与えられていないと感じ、冷めた気持ちでいることがわかった。私のコンサルティングを受けていたリーダーは、社員集会や昼食会を開催して社員に活力を取り戻させたいと考えていた。

 そのアイデアはうまくいかないだろうと、私は警告した。社員は幹部から発破をかけられたいとは思っていないはずだ。社員が望んでいるのは、上層部が足並みをそろえて、一貫性のあるメッセージを発すること。それを実現するためには、リーダーがマイクロマネジメントをやめにして、ほかの人たちがもっと主体性を発揮できるようにする必要があった。

 このリーダーは、最初に思いついた手っ取り早い解決策ではなく、上級幹部の権限がなければできない対策を実行した。組織のあり方を改めることで社員の経験の質を改善し、それを通じてパフォーマンスも向上させようとしたのだ。

 たとえば、「ライブ・ハック・セッション」という集まりを企画した。ミドルマネジャーが進行役を務めて、社員たちが日々直面している問題を話題にし、その解決策を話し合う場を設けたのだ。

 ガバナンス・システムも変更して、意思決定の権限をそれまでよりも下の組織階層に移し、現場レベルの管理職が問題の解決策を実行するために必要な資源を提供した。また、顧客の意見を聞く場を設けて、それぞれの市場でどの点がうまくいっていて、どの点がうまくいっていないかを社員が学べるようにした。

 こうした施策により、社員の誇りと当事者意識が飛躍的に高まった。