●昇進から脚光へ

 社員の不満を生む大きな要因の一つは、昇進の見通しがない(と感じられる)ことだ。

 キャリアが行き止まりになったと感じている人は、しばしば幹部ならその状況を解消できると思っている。しかし、リーダーに不満を訴える機会を与えるだけでは、非現実的な期待を高めかねない。組織階層を飛び越えた面談(リーダーが数階層下の社員と話をする)などの対策は、むしろ問題を悪化させる危険がある。幹部と現場の社員の間にいる管理職の権限を剥奪したり、その人たちを迂回したりする方策を講じれば話は別だが、そうでない限り、幹部が社員の不満に耳を傾けるだけでは問題の解決にならない。

 幹部が現場に足を運んで社員と話すことに、意味がないわけではない。幹部が社員と話したり、工場を訪ねたりすれば、若手社員がメンタリングを受けたり、学習の機会を得たりできる場合もある。しかし、社員のキャリア開発に関しては、幹部が問題を解決することは現実的に不可能だ。

 それでも、幹部が地味な社員にスポットライトを当てることはできる。それは幹部にしかできないことだ。リーダーは、貢献した社員が上層部の前で自分の功績を披露する機会をつくるようにするとよい。下級レベルの社員を上層部の会議に招くのも有効な方法だ。最上層部の幹部たちも、普通なら接点のない社員の視点に触れたり、その人たちの貢献について学んだりできる。

 私がコンサルティングしているCEOの一人は、これを実践してきた。

 幹部チームのメンバーに対し、部署内の傑出した人材を紹介するよう求めているのだ。具体的には、毎月2人の幹部がそれぞれの部署の人材を選び、幹部チームとの非公式の対話に参加させる。選ばれた社員は、日々の仕事で苦労していることを語ったり、いちばん胸を張りたい成果を披露したりする。これを経験した社員は、最上層のリーダーたちから評価されているという感覚を抱ける。

 この取り組みは、数年前の人事評定のあとで始まった。そのとき、CEOはこう述べたという。「社員について話し合うのなら、その人たちと直接会うのが礼儀というものだ。そうやって、社員の仕事ぶりを知る必要がある。社員もその機会に、自分が会社で重要な存在と思われていると知ることができる」

 リーダーは、メンバーが幸せであってほしいと思うものだ。しかし、社内での地位が高まるにつれて、その思いを実現するために取れる行動は変わってくる。

 幹部に昇進すれば、直属の部下はともかく、それ以外の人たちのことは、その人たちの直属の上司に任せるほかない。それよりも、リーダーにしかできないことをしよう。つまり、社員の使命感を育んだり、当事者意識を持てるようにしたり、脚光を浴びる機会をつくったりすることにより、組織全体の幸福感を高めていくべきなのだ。


HBR.org原文:Balancing the Company's Needs and Employee Satisfaction, November 01, 2019.

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ロン・カルッチ(Ron Carucci)
米コンサルティング会社ナバレント(Navalent)の共同創設者、マネージングパートナー。組織やリーダー、業界の変革を目指す企業のCEOと幹部を支援する。ベストセラー作家でもあり、著書に最新刊Rising to Power(未訳)など8冊がある。ツイッター(@RonCarrucci)でも発信している。ナバレントのサイトで、彼の電子書籍Leading Transformationを無料でダウンロードできる。