
会社にとって好ましい行動が、社員の幸福を最大化するとは限らない。業務量が著しく増加したり、本人の希望とは異なる仕事を課したりする可能性がある。とはいえ、社員の顔色を気にしすぎて事業運営に支障をきたしたら本末転倒だ。組織としてやるべきことを実行しながら、社員の情緒に適度に配慮するために、3つの視点で発想を転換することを推奨する。
私のクライアントであるミーガンの会社は、あるとき顧客関係で大きな問題に直面していた。そこで、彼女は各部署のトップを集めて会議を開き、対策を話し合った。
きわめて野心的な計画が決まったあと、ある出席者が言った。「この件を社員に伝えるときは、慎重に振る舞わなくてはなりません。仕事の量が大幅に増えるのですから。みんな不満を抱くでしょう」
実はこの前年に、同社では社員のエンゲージメントのスコアが落ち込んでいた。新しい計画が実施されれば、このスコアがさらに下落しかねないと、この人物は恐れたのだ。
ミーガンは、その場ではどうにか冷静さを保ったが、直後にこう私にぶちまけた。「私は会社の危機を切り抜ける方法を考えていたのに、社員がハッピーでいられるかを心配しろだなんて」
ミーガンの言葉は、企業幹部ならば、たいてい身に覚えのあるジレンマを浮き彫りにしている。
幹部は、自分より下の階層にいる社員の職場人生を、大きく左右する力を持っている場合が多い。ところが往々にして、その人たちとの間には意識の大きなズレがある。それは主として、人が社内で出世するのに伴い、メンバーの気持ちに配慮することよりも、会社全体の風土を築くことが役割になるのが原因だ。会社にとって好ましい行動と、社員の幸福を最大化する行動は、つねに両立するとは限らないのだ。
そのため、幹部たちは、一見すると当たり前の選択をするのが難しい場合がある。社員の思いについて最上層の人たちの耳に届くのは、個別のエピソードに基づく、誇張された意見である場合が多い。「みんな不満を抱く」というのも、あくまでも誇張表現だろう。
それに輪をかけて問題をややこしくしているのが、社員のエンゲージメントに関する調査だ。この種の調査は社員の反応を集約して示すため、正確なデータをもとに意思決定することが難しい。
このような状況で、企業幹部はしばしば、「冷淡」「薄情」と思われたくないと思う。その結果、社員の反応を気にしすぎ、不幸せな状況にある社員の個別事例に引きずられがちになる。
よりよいリーダーになるためには、こうした心理を乗り越えなくてはならない。社員の情緒面での幸福に適度な配慮をしつつ、組織全体にとってより好ましい決定を下す必要があるのだ。
私は企業幹部に対するコンサルティングの経験を通じて、以下のように発想を転換することが重要だと知った。