
医療の世界では人工知能(AI)の導入が進んでいるが、その必要性はこれまで以上に増している。長時間労働による医師の燃え尽き症候群(バーンアウト)が爆発的に増加しており、彼らを事務作業から解放するのが急務となっているからだ。筆者らは、医師が本来の仕事に集中できるようにするために、「アンビエント・クリニカル・インテリジェンス(ACI)」が有望なアプローチになるという。
最新のテクノロジーを駆使した、ヘルスケア商品の台頭が著しい。ユーザーが日々の健康状態をチェックできるウェアラブル端末から、人工知能(AI)を使って治療結果や費用を改善する(という)診断アルゴリズムまで多種多様だ。
そんな中、医師や病院経営者は根本的な問いを抱くようになった。「こうしたテクノロジーは、本当に解決すべき問題を解決しているのか」
この問いは、2つの理由から、一段と重要性と緊急性を増している。
第1に、ヘルスケアIT市場に参入するテクノロジー企業が急増していること。調査会社マーケッツアンドマーケッツによると、その市場規模は2024年までに3900億ドルを超える見込みだ。第2に、医師における燃え尽き症候群のパンデミック(爆発的流行)だ。これは世界医師会(WMA)が使った表現で、原因は、診察や治療内容を記録する膨大な電子的なペーパーワーク(保険や還付金の申請手続きや、法医学的な責任を問われたときに備えて必要不可欠だ)である。
医師の半数以上が、やってもやっても終わらないドキュメンテーションと報告書作成業務(1時間の診療時間に対して2時間を要することも多い)に疲れ果てていると答えている。2019年6月の内科学紀要で発表されたある研究は、「燃え尽きた」医師の交代増加と、その結果生じる診療時間の減少は、控えめに見ても年間46億ドルのコストを生じさせているとの見方を示している。
医師をエンパワメントするテクノロジーを開発して、彼らが情熱を傾ける本来の仕事に戻れるようにすることが必要不可欠だ。医師がもっと患者に集中できるようにすることも重要である。
したがってヘルスケアIT開発は、医師のニーズを深く理解することからスタートし、医師の医療行為に適応して、それをサポートできるAI能力を構築すべきだ。その点、アンビエント・クリニカル・インテリジェンス(ACI)は、有望なアプローチになるだろう。