夫婦ともに高学歴で、ハードな仕事に就き、上昇志向が強い、キャリア志向のカップルが増えています。模範となる先達モデルはなく、2人で力を合わせ、仕事と家庭を両立させる生き方を見出していく必要があります。新年最初の今月号は、そうした「デュアルキャリア・カップル」の生き方を起点に、人々が幸せな生活を実現するための方法を特集しました。
特集1番目の論文は、113組のカップルを面談調査して、彼らが課題をいかに克服したかを分析。そこに共通する、人生における3つの転機の乗り切り方を示しています。具体的には、(1)カップルのキャリアの両立、(2)"中年の危機"への対処、(3)親の死などによる喪失感の克服、です。年齢に関係なく、万人に役立つ示唆となっています。
特集2番目の論文の主張は、ずばり、「配偶者選びがキャリア形成の成否を分ける」。ヘッドハンターである筆者の職務経験と、女性CEO57人への面談調査に基づくもので、納得感があります。
特集3は、別居婚(単身赴任)をうまく行うための方法論。キャリア志向のカップルでは、どちらかが転勤となり、別居婚を選択せざるをえなくなることがあります。この分野についての近著がある社会学者が、的確なアドバイスを語っています。
特集4は、デュアルキャリア・カップルのための「子育てガイドブック」。育児休業後のスムーズな職場復帰、仕事と育児を両立させるスケジュール調整、子どもの用事で職場を短時間離れる際の同僚とのコミュニケーションなど、まさに「ある、ある課題」への対処策集。育児期間まっ最中の部下を持つ管理職向けに、「できること」コラムも掲載しています。
以上のハーバード・ビジネス・レビュー翻訳論文を読むと、日米の状況が意外と似ていることに驚きを覚えるかもしれません。とはいえ、まだまだ女性の負担が重いという日本の事情があり、それをいかに改善するかの提案が特集後半です。
特集5はこの分野で先進するユニリーバ・ジャパン・ホールディングスの取締役、島田由香氏による論考。ご自身の育児と仕事の両立体験に加え、ポジティブ心理学に裏付けされていて、説得力があります。特に、いつでもどこででも働ける同社の制度「WAA」(ワー)は、全社員が(独身者も、親の介護状況にある社員も)活きいき働けることを支援していて、参考になります。
特集6は、慶應義塾大学大学院教授の前野隆司氏とEVOL代表取締役の前野マドカ氏夫妻のデュアルキャリア・カップル対談。島田氏と同様にご経験と、仕事を通しての現状認識に立って、幸せの研究を続けているご夫婦なればこその深い考察と実践策が提示されています。読み進めていくと、「そう、そう」「なるほど!」の連続です。
特集全体を通して、プロとして、パートナーとして、親として、そして自分としての働き方を再考するきっかけとなれば幸いです。
特集以外では、「中国企業は成長の危機を乗り越えられるか」「エコシステム経済の経営戦略」「契約取引はビジョンの共有から始めよ」(2016年のノーベル経済学賞受賞者が筆者)など、骨太の論文のラインアップとなっています。