HBR Staff/H. Armstrong Roberts/ClassicStock/Getty Images

自分の悪しき行動パターンを変えるのは簡単ではない。一度は改善されたと思っても、些細なきっかけで悪い癖が戻ってしまうことも多い。筆者は、自己変革を実現するには、有害な行動を生み出す根本原因を突き止めるために、心の奥底に潜む「オリジン・ストーリー」をあぶり出すべきだという。本稿では、自分を変えるための4つのステップを提示する。


 問題のある行動パターンは、コーチングやトレーニングなどの研修で修正できることも多いが、この方法がいつも功を奏するとは限らない。最初は行動が改善されそうに見えても、やがて悪い癖が再び頭をもたげてくる場合もある

 悪しき行動パターンから脱却するつもりがあっても、好ましい行動を継続することに苦労する人が多い。過酷なプレッシャーにさらされたり、引き金になる出来事があったりすると、以前の悪い行動パターンに戻ってしまうのだ。

 研究によると、自己変革を成功させることが難しいのは、脳の2つの領域が足並みを揃えなくてはならないからだ。

 どのように行動を改めるべきかを学ぶ際は、脳の前頭前皮質が働く。合理的思考を通じて新しい知識やスキルの獲得を司る領域である。一方、自己変革へのモチベーションを生むのは、「報酬系」と呼ばれる脳内回路だ。この回路がドーパミンという神経伝達物質の放出を促し、快感を生み出すことにより、ある行動へのモチベーションが高まる。

 すなわち、「意志」を司る脳の領域と、「方法」を司る脳の領域の両方が働く必要がある。新しいスキルや行動パターンの習得に失敗する場合、それはたいてい、2つの領域の片方しか働いていないからだ。

 しかし、問題はそれだけではない。自己変革に対するひときわ強い抵抗は、人格形成期のトラウマに根差したものである場合も多い。そうしたトラウマの経験は、脳の扁桃体という部位にしっかりと記憶されている。扁桃体は、脅威を察知し、それに対する感情的反応を引き出す部位だ。記憶はあくまでも過去の経験に関わるものだが、扁桃体が脅威を察知すると、過去の経験が現在進行形の出来事のように感じられて、人は自己防衛の行動に走る。

 問題は、そうした自己防衛の行動が有害な副作用を伴うことにある。この状態に陥ると、「意志」(=モチベーション)と「方法」(=認知的学習)を持っていても、自己変革が前に進まない。

 では、どうすればよいのか。コーチングの顧客が本気で自己変革を目指しているにもかかわらず、変革を妨げる行動パターンに陥っている場合、私は型破りな方法で対処する。

 具体的には、まず、悪しき行動を生み出している原因、言ってみれば心の奥底に潜んでいる物語をあぶり出すよう促す。私はそのようなストーリーを「オリジン・ストーリー」と呼んでいる。

 このアプローチを実践したからといって、長丁場のセラピーが不要になるわけではない(オリジン・ストーリーを明らかにした結果、セラピーの必要性が浮き彫りになる場合もある)。しかし、オリジン・ストーリーを掘り起こす作業を通じて、リーダーたちは不安を感じず、断ち切れない行動パターンの原点を突き止め、長続きする自己変革への第一歩を踏み出すのに必要な自己認識を持つことができる。

 あなた自身や、あなたがコーチングしている人物が好ましくない行動(怒りを爆発させたり、大きなリスクを伴う状況で緊張して固くなってしまったり、ストレスを感じると過剰なコントロールに走ったりすることなど)を改められないときは、オリジン・ストーリーを明らかにすることで状況が好転する可能性がある。ほかのアプローチが成功しなかった場合でも、現状を打破して前進する助けになるかもしれない。

 このアプローチは、以下の4つのステップで進む。