従業員に権限委譲する

 私たちが話を聞いた経営幹部は、従業員たちに、会社のオーナーのように考え、振る舞って欲しいと繰り返し語っていた。

 そのための重要なカギとなるのは、仕事の一部を自由にやる裁量を与えることだ。すると従業員は仕事に対する当事者意識を高め、自分が裁量を与えられている部分をどう「再構成」し、「改良」し、「改善」するかを、始終考えるようになる。それは従業員の成長とイノベーションをもたらし、会社を前進させる。

 この種の仕事に対する当事者意識は、SASで見事に表れている。

 SASの本社は、外観も雰囲気も大学のようだ。ノースカロライナ州ケアリーの広大な森の中にあり、900エーカーの敷地面積のうちで建物が占めるのは300エーカーほど。その周囲にはジョギングコースや自転車レーン、小川、散歩道が配置されている。造園師には一定の区画が与えられ、地形と周囲の建物とのバランスを考えて、自分が一番いいと思うデザインにすることができる。

 SASの仕事の進め方も同じような仕組みになっている。会社は従業員に、衆目にさらされるプロジェクトを任せて、自分が最も適切だと思うように自由にやらせる。このとき多くの従業員は、必要に応じて同僚や上司の助言を求める。

「よその会社の人たちは、SASを新しい職場のパイオニアだと思っている」と、あるフォーカスグループの参加者は言った。「でも、私たちは重要なことを任されている。よい仕事をすることを期待されている。だから顧客だけでなく、社内の同僚たちに対しても責任を感じている」

 小売業のロイヤルティプログラムを開発するクララス・コマース(Clarus Commerce)も、SASと似たような方針を取っている。

 トム・カポラゾCEOの経営哲学は、強いスポーツチームの哲学にそっくりだ。すなわち、優れた人材を確保する。その人材に訓練・練習・準備をほどこす。チームメイト同士で助け合わせる。失敗から学ばせ、勝利も敗北も受け入れさせる。

 監督(上司)はフィールドから障害物を取り除き、選手(従業員)が自由にやれるようにする。ひとたび試合(プロジェクト)が始まり、選手(従業員)が自分でやれることを証明したら、監督(上司)はめったに口を出さない。

 従業員の能力プラスアルファの範囲で自由に仕事をさせる以上、失敗はつきものだ。その事実を上司は受け入れる必要がある。それに最高の企業にとって、失敗はつきものであり、個人と組織の成長に不可欠なものだ。だから私たちが話を聞いた企業は、定期的な失敗を普通のこととして受け入れていた。

 また、バンブーHRでは、失敗に対処する斬新な方法を編み出していた。「おっとっとメールボックス(Oops Email Box)」なるものを設置して、創業者を含む全従業員が自分の失敗と、そこから得られる教訓、そして実際に取った是正策を報告できるようにしていたのだ。