自分らしく働く余裕

 職場で、上司の好みや慣例といった制約に直面するのは日常茶飯事だ。しかし、それは必ずしも、従業員が自分の情熱や信念に基づいて行動することを妨げるわけではない。私たちの模範企業の従業員は、自分が自分らしくあることができる場所を見つけていた。でも、どうやって?

 モトリーフールは、シェイクスピアの『お気に召すまま』に登場する道化師にちなんだ社名を選んだ。道化師は社会のルールを無視して、自分の意見や信念をずけずけ言うことが許されている。

 モトリーフールを創業したトムとデービッド・ガードナー兄弟は、道化師の代わりに「愚かさ」を企業文化に織り込んだ。同社には「親が恥ずかしいと思うような服は着てこない」以外に服装規定はなく、正直であることを中核的価値観の一つとして明記している。つまり、従業員が服装だけでなく、発言においても、自分らしさを表現できる環境をつくったのだ。

 N2パブリッシングでは、従業員が自分の才能を会社で活用できる仕組みをつくっている。実際、私たちが話を聞いた従業員は、仕事で自分の特技を生かせることに大きな満足感を得ていた。

「N2は、リラックスして自分らしく働ける会社だ」と、ある人物は語った。郵便室の責任者はラップ音楽が得意で、N2のテーマソングをつくって披露した。グラフィックデザイン部の従業員たちは、フル・ブリーズ(The Full Bleeds)というバンドを組み、毎月の全社会議で演奏する。この全社会議では毎月、会社に貢献した人物やチームが表彰される。

 私たちが訪問したときは、編集部全体が表彰されていた。編集部長のアマンダは素晴らしいビジュアルアーティストである。部員全員のイラスト(マーベルのスーパーヒーロー風だ)を描き、それぞれのユニークな働きを称える感動的なスピーチをした。

 こうした企業は、自分らしく仕事に取り組むことは、人生を肯定することにつながることを教えてくれる。それは自分が何者で、何を大切にしているかを表現することになるからだ。「自分らしく働く」ことには、見えないプラス面もある。自分の価値観に沿った仕事をしている人は、そうでない人たちよりも粘り強く、道徳観念が強く、環境にさほど左右されず、誘惑に負けずに理念を守る傾向がある。

 こうした発見を踏まえると、会社の利益ばかりを考えて行動している企業が多すぎると言っていいだろう。

 会社に利益をもたらす有能な経営者は、従業員より儲けることを優先すべきだという考え方には、大きな欠陥がある。これは市場の機能を誤解しているからではなく、人の働き方について大きく誤解しているためだ。私たちが研究した模範企業は、人こそすべてを動かす会社の中心的存在だと認めることにより、ビジネス面でも大きな成功を収めてきた。

 経営者に対して、自分の職務だけ考えて、利益を生み出す仕組みを動かすことだけに集中すべきだと言うのは、人生で最も重要なことは何かという、企業経営者としてタフな問いを避けるチャンスを与えてしまう。

 経営者が、「よい人生というものは、商取引から少しずつもたらされるものだ」という誤解に基づき、市民としての責任を回避するのを許すべきではない。人々のポテンシャルを高め、豊かな人生を送るのをサポートすることも、経営者の仕事の一つだと、私たちはもっとはっきり要求すべきである。仕事により深遠な目的意識を持てなければ、いったい何のために、日々こんなに大変なことをしているのかわからない。

編集部注:ランキングや指標は、特定の手法またはデータセットに基づき、企業や職場を分析・比較する方法にすぎない。念入りに設計された指標は、たとえ大局的な状況の一面にすぎなくても有用なインサイトをもたらすと、ハーバード・ビジネス・レビューは考えている。方法論を常に慎重に読まれることをお勧めする。


HBR.org原文:What the "Best Companies to Work For" Do Differently, December 12, 2019.

マイケル・オマリー(Michael O'Malley)
パールマイヤーのマネジングディレクター。博士。近著にビル・ベーカーとの共著Organizations for People(未訳)がある。


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