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ワーク・ライフ・バランスが重要だと頭では理解していても、寝る間を惜しんで働く日々から抜け出せずにいる人は多いだろう。メールの返信や会議の合間を縫って仕事をすれば、作業の質が落ちるだけでなく、問題処理力も低下するので、いっそう時間が足りなくなる。その結果、残業や休日での対応を余儀無くされ、私生活を犠牲する状況が生まれている。本稿では、ワーク・ライフ・コンフリクトを解消するために、組織として取り組むべき3つの方法を紹介する。


 私は職業人生の大半の時期、非常に忙しい日々を送ってきた。心臓が止まるくらい忙しい時期もあった。長時間働き、家族との時間や娯楽の時間を犠牲にし、激しいストレスにさらされていた。

 数年前、20年近く働いた『ワシントン・ポスト』紙を辞めるに当たって書類を整理していると、自分が書いた中途半端な記事の切り抜きが大量に見つかった。もっとよい記事を、もっと素晴らしい記事を書けたはずだ。もし、あんなに忙しくなくて、記事に磨きをかける時間をもっと取れていたら、状況はまるで違っただろう。

 私はこの件に関して、恥と後悔の入り混じった感情を抱き続けてきた。もっと重要な仕事をやり遂げる時間を確保できなかったことや、プライベートをもっと大切にするためにすべてを手際よく片づけられなかったことで、自分を責めたものだ。しかし、やがて気がついた。私の問題は、「忙しさのパラドックス」にはまり込んでいたことだったのだ。

 私はここ数年、行動科学により実社会の問題解決を目指す非営利団体「アイデアズ42」と一緒に、あるプロジェクトに取り組んできた。ワーク・ライフ・コンフリクト(仕事と私生活の摩擦)を解消するうえで、行動科学に基づく設計が有効かどうかを明らかにしようというのだ。

 ワーク・ライフ・コンフリクトはストレスを生み健康の悪化生産性の低下ジェンダーの不平等の大きな要因になる可能性がある。私たちの研究によると、そうした摩擦を生む大きな要因は、忙しさだ。

 私たちのプロジェクトの最も重要な発見は、一人ひとりの働き手の努力によっては、この問題を解決できないという点かもしれない。最も効果がありそうな対策は、個人レベルではなく、組織レベルのものに思える。