Jan Stromme/Getty Images

解雇や処分を伝えるのは、誰にとっても辛い仕事である。その相手が個人的に親しい人物であったら、なおさらであろう。一言目には何と言えばいいのか。自分の懸念をどう伝えればいいか。本稿では、言いにくいことを伝える前にやっておくべき4つの準備を紹介する。


 やっぱり、ランディには辞めてもらうしかない――。私がそう決断するのに、1年半近くかかった。

 彼の実績を考えれば、何年も前から当然のことだった。でも、とにかくランディは性格がよくて、人当たりがいいから、私は「疑わしきは罰せず」を実践していた。

 ランディのことが好きだったし、我が社からの収入が彼の家族にとって極めて重要であることを、私は知っていた。しかも、それまでの9年間で彼の収入は非常に高くなっていて、同レベルの収入を得られる転職先を見つけるのは非常に難しくなっていた。

 私がクビにすることで、彼が直面しなければならない困難を考えたくなかった。だが彼は、部下やプロジェクトを管理する能力がまったくなかった。どのプロジェクトを先に終わらせるかも、ビジネスの重要性ではなく、一番しつこくせっついてきた人の要求に基づいて決めた。

 彼は何にでも「うん、うん」とうなずくが、きちんと理解しているかは怪しかった。パニックに陥って方々に電話をかけ、それまでのアジェンダをひっくり返すため、ランディのチームはいつも大わらわだった。

 1年半前、私はこの慢性的なパターンの深刻な問題点をランディに伝えた。そして、そのとき一緒に考えた改革を、彼がきちんと実行に移せると信じていた。それからの数ヵ月間、ランダムな成功を目にするたびに、事態は改善に向かっているのだと、私は信じ込もうとした。

 だが、それから長い時間が経ち、同僚たちが口を揃えて不満を訴え続けるのを聞いて、私はもう自分の責任を回避することはできなかった。ランディを解雇しなければいけなかった。

 ランディとのミーティングは金曜日の午後2時。それまで私は、生きた心地がしなかった。

 この30年間、私と同僚たちは、まさにこの種の感情的または政治的リスクに対処するためのベストプラクティスを研究してきた。そして、この種の決定的に重要な会話にどう対処するかが、その人の影響力の大きさや、チームの健全性一貫したイノベーション、顧客との関係、さらには結婚や友情の持続性に比例することを学んできた。

 同時に、人々がこのような場面をどう乗り切るかを何千時間も観察した結果わかったのは、残念ながら、人は最も重要な場面に限って、最悪の対応をすることだ。委縮する場合もあれば、威嚇する場合もある。曖昧にする人もいれば、誇張する人もいる。攻撃的になる場合もあれば、身構えすぎる場合もある。

 このトピックに関する本(私たちの著書を含む)が飛ぶように売れるのも当然だ。誰もが、言いにくいことを言う方法をどうすればマスターできるか、戦術的なアドバイスを求めているのだ。一言目には何と言えばいいのか。自分の懸念をどう伝えればいいか。どうすれば率直な反応を引き出せるか。どうすれば脱線せずに、解決策に到達できるか。

 いずれももっともな問いだが、私たちの研究では、解雇を言い渡すような重大な会話を成功させる最大のカギは、口をどう使うかではなく、口を開く前に何をするかであることがわかった。私がランディとのミーティングを成功させるためには、金曜日の午後2時にやることよりも、1時半にやることのほうが重要だったのだ。

 そこで、この種の場面でやっておくべき4つの準備を紹介しよう。これをやれば、ミーティングを劇的に改善できるだろう。