数字が戦略に取って代わる
戦略と業績指標を関連付ける慣習は、数十年前からベストプラクティスとして認められている。戦略は当然ながら抽象的なものだが、指標で表すと中身をつかみやすくなる。指標を用いたなら、フォード・モーター・カンパニーのかつての戦略だった"Quality is job one"(品質第一)は、シックスシグマの品質基準へと置き換えられただろう。アップルの"Think different"や、サムスンの"Create the future"は、新製品の販売数と結び付けることができただろう。戦略を組織構築の青写真とするなら、業績指標はコンクリート、木材、乾式壁、レンガに相当する。
しかし、このような仕組みには罠が潜んでいる。容易に戦略を見失い、戦略の表現であるはずの業績指標をもっぱら重視してしまうのだ。その極端な事例であるウェルズ・ファーゴを本稿では細かく見ていきたい。ウェルズ・ファーゴの従業員は、いまや悪名を馳せる同行の「クロスセリング」戦略を実行しようとして、顧客の同意を得ずに普通預金口座を開設したり、クレジットカードを発行したりした。その合計は350万件にも上る。
この不祥事の代償は極めて大きく、財務への打撃はいまだ収束の兆しが見えない。当初の制裁金として1億8500万ドルを納め、顧客に610万ドルの手数料を返還した。集団訴訟の原告からは2002年にまで遡って損害賠償を求められ、最終的に1億4200万ドルを支払って和解した。