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クレイトン・クリステンセン教授が、2020年1月23日に他界した。本稿ではThe Clayton M. Christensen Reader(未訳)のイントロダクションに依拠しながら、教授のHBR掲載論文の中から特に重要性が高いものを選んで紹介する。


 クレイトン M. クリステンセンは何よりもディスラプティブ(破壊的)イノベーション理論で有名であり、「既存の大企業は、みずからが最も得意とする分野を極めすぎる危険がある」と警鐘を鳴らした。そのような企業は利益率と売上高を押し上げようとして、最も洗練度の高い顧客の需要を満たすために製品を開発する傾向があるというのだ。

 この戦略は功を奏するかもしれないが、半面では、洗練度の低い顧客層(やがて、もっとはるかに大きな市場を形成するかもしれない)のニーズを満たす機会をともすれば無視することにもなりかねない。したがって新興企業は、低価格で、ひいてはより広く受け入れられる、シンプルな製品を市場に投入することができる(すなわち「破壊的イノベーション」である)。この製品は漸進的イノベーションを通して洗練度を高め、アップマーケットへと移行し、既存企業の破壊(ディスラプション)を完了する。

 ディスラプションをめぐるクリステンセンの理論は繊細であり、往々にして誤解を招く。革新性の高いテクノロジーすべてが「破壊的」なわけではない(ところが、ジャーナリストやテクノロジー崇拝者がこの言葉を濫用するせいで、事実が見えにくくなっている)。スタートアップがすべて既存企業を打ち負かすわけでもなければ、大企業が残らずディスラプトされるわけでもない。

 教授がHBRに寄稿したディスラプション関連のおおもとの論文をひも解けば、どのような理論であるのか、教授が説く脅威に企業はどう備え、克服すればよいのかが、より正確に理解できるはずである。

 その理解に大いに寄与するのが、論文に付随するケーススタディである。教授は意識的に実例を取り上げ、それらの実例は寓話的な役割を果たす。説得力にあふれ記憶に残りやすいため、読者は教授の考え方を自分たちの業界に当てはめやすい。

 教授の理論に馴染んだ人々は、電炉メーカー(ディスラプトした側である!)の成功や、ディジタル・イクイップメント・コーポレーションの運命(ディスラプトされた側である!)をよく知っているはずだ。最高のミルクシェイク(片付けるべき用事〔ジョブ〕を持った商品)をつくる条件や、MP3技術を本格的に普及させたのがiPod(革新的なビジネスモデル)である理由を心得ているのだ。

「プロフェッショナル人生論」では、ストーリーテリングの術を活かして、ある有力CEOに、戦略を変更して市場の底辺へ参入するよう説得したときのことを回想している。「もし私がアンドリュー・グローブに言いくるめられ、マイクロプロセッサーのビジネスについて何を考えるべきかを教えていたら、私は自滅していたに違いない。しかし、私は何を考えるべきかを説く代わりに、(電炉メーカーの事例を引き合いに出すことにより)どう考えるべきかを教えた」。教授の論文が読者に対して果たすのは、これと同じ役割である。

 本稿では、クリステンセン教授がこれまでHBR誌上で発表した中から、重要性と影響力が最も大きな論文を紹介する。これら論文では、ディスラプションというパズルを構成する、異なるピースの数々が分析されている。それらのピースを理解することは、戦略チーム、製品開発ユニット、組織のリーダーにとって極めて重要である。ピースとは、具体的には以下のようなものである。