経営理念や長期目標を実現するため、経営者やマネジャーは経営戦略や事業戦略を練ります。しかし、その実行にはいくつかの難しさがあります。それらをどう克服するかについて、複数の視点で考えてみたのが、今月号の特集です。


 難しさの一つは、個々の社員がどう行動すれば戦略の実行につながるかがわかりにくいことです。そこで、仕事の現場ではMBO(目標管理)など、戦略を個人の数値目標に関連付けます。この手法は多くの場合、成果が出ているので、正攻法と見なされています。しかし、そこには失敗に陥りがちな罠があると問題提起するのが、特集1番目の論文です。

 社員がみずからの目標達成に没頭して、戦略と数値目標にズレがあっても気づかず、あるいは軽視して、誤った方向に猛進してしまうおそれがあるのです。原因は、人の意識下の偏向にあります。この構造を実際の失敗例でわかりやすく解説し、後半で防止策を示します。

 今日、日本企業が長期成長を狙ううえでの難題は、イノベーション不足です。この点に挑む研究をもとにしたのが特集2番目の論文。筆者は、一流の科学者に関しての研究から、「科学的思考」に基づく「失敗のマネジメント」が、日本企業には欠けると指摘します。R&Dでの仮説検証プロセスを経た失敗の重要性を説き、失敗を促すようにインセンティブ設計を見直す必要があるとします。

 イノベーションのための投資の適正化法を提示するのは特集3番目、キャズム理論の提唱者、ジェフリー・ムーア氏です。デジタルサービス時代を迎え、サブスクリプション型モデルが社会に浸透する中、まず企業は、顧客の成功を優先する「カスタマーサクセス」経営に転換すべきであると論じます。と同時に、長期と短期の目標を達成するように投資をバランスさせることを推奨し、そのためのフレームワーク「ゾーンマネジメント」について提示します。

 特集4番目の論文は、企業が戦略を実行して成長を持続するための方法論です。近年、注目される「パーパス」(企業の存在意義)を戦略の中心に据えるというものです。パーパスを道標とすることで、成熟市場などで必要な、企業の活動領域の再定義や提供価値の再形成を的確に実行できます。そのためのパーパス設定のアプローチや、人的な面への影響などを詳述しています。

 こうしたことを経営者として実践しているのが、資生堂CEOの魚谷雅彦氏です。2014年、同職に就任して以来、長期の成長戦略を打ち出し、イノベーション投資を強化し、業績を拡大。「トライ・アンド・エラー・アンド・トライ」と称して、失敗を恐れず挑戦する文化を醸成しています。経営哲学を実行につなげる要諦についてインタビューしました。