
「CEO輩出工場」として思い浮かぶのは、どんな企業だろうか。GEやIBM、P&G、マッキンゼーなどの名前が挙がるのではないか。だが、一般の地名度はそれほどでもない意外な会社も多数のCEO人材を育て上げ、彼らは実際に大きな成果を残している。本稿では、そうした企業が実践する3つのリーダーシップ開発手法を紹介する。
S&P500企業の約1割は、CEOを毎年交代させている。それらの任命人事の背後ではしばしば、後継者を育てるために何年もかけて複雑な準備が行われている。
適切な後継候補の育成に苦労し、次期CEOを育てる効果的な方法を模索するCEOおよび取締役会から、筆者ら(リーダーシップを専門とするアドバイザー)は定期的に接触を受ける。
ゼネラル・エレクトリック(GE)やIBM、P&Gといった老舗の巨大企業、そしてマッキンゼー・アンド・カンパニーなどは、歴史的に「CEO輩出工場」と目されてきた。実際、S&P1500企業で1992~2010年の間に任命された全CEOの20.5%は、このようなCEO輩出工場36社から出ており、なかでもGE出身者は最も多い。これらの企業の幹部がCEO人選リストの最上位に挙がってきたのは、社名の圧倒的なブランド力によるところも少なくない。
しかしながら、現在のGEのトップは外から来た人物だ。IBMは業績にばらつきが見られる。P&GはCEO承継人事において、前任者の再登板という苦い経験をしたことがある(2013年)。
取締役会、CEO、人事部が、自社のリーダーシップ・パイプラインを強化するために活用できる、再現可能な手法は何か。それを見出すには、いまや有名企業のみに囚われない視野を持つ必要があるのだ。
人材育成に関しては、最大手級の人材輩出企業のほうが有利だろうと考えたくなるものである。しかし、当社ghSMARTが実施したCEOゲノムという調査によれば、一部の意外な企業が非常に多数のCEOを輩出している。加えて、それらのCEOは高業績を上げる傾向が顕著だが、その一因には彼らの出身企業におけるリーダーシップ開発手法がある。
筆者らの推測では、このような「知られざるCEO輩出所」はさまざまな業界・地域にわたって十数社ほど存在する。例としてメドトロニック、ローム・アンド・ハース(化学品メーカー)、ダナハー・コーポレーション(産業機器メーカー)などがある。後者2つについて、以下で詳しく掘り下げてみよう。
ダナハーは科学的イノベーションで見事な実績を上げてきた。しかし、同社のOBであるローレンス・カルプがGEのトップに就任するまで、世間一般にはほとんど知られていなかった。ローム・アンド・ハース(2009年にダウ・ケミカルと合併)も化学業界では評判が高かったが、有名企業ではまったくない。
しかし両社とも、優れたCEOを多く輩出してきた。さらに重要な点として、両社いずれかの出身のCEOが率いた企業の業績は、そうでないCEOらが同じ企業を率いた場合に比べて67%高かったのだ(筆者らと共同で調査を実施したシカゴ大学のN. ベラ・チャウとスティーブン・キャプラン教授による分析。2社いずれか出身の35人のCEOが率いた企業群の株式リターンと、そうでないCEOが同じ企業群を率いた時期の株式リターンを比較した。業界平均の変動に関しては調整済み)。
こうした知られざる企業がCEO人材の輩出に成功している要因として、特に重要な慣行が3つある。これらは、今日多くの大企業で広く見られるアプローチとは異なるものだ。後継者を育てる取締役会、CEO、CHRO(最高人事責任者)にとって、以下の慣行は有益な示唆となる。また、自分を成長させたいと望む個人にとっても参考となるだろう。