
勤続者や優れた成果を上げた従業員に対して、特別な表彰を実施する企業は多い。自分の価値が認められているという実感が持てると、従業員の生産性が上がることがわかっており、こうした取り組みは総じて効果を発揮するように思える。ただし、部下への感謝や評価の伝え方が機械的で心が込もっていないと、心が離れる原因にもなる。本稿では、マネジャーがやるべきことと、やってはいけないことの具体例を紹介する。
次のようなシナリオを思い浮かべてみよう。ローウェンという会社員の話だ。
勤続10周年を迎えた日、ローウェンが職場に着くと、付箋のついたギフト券が彼のデスクに置いてあった。付箋には「勤続10周年記念」と書いてあり、彼のマネジャーからだった。しかし、そこには感謝の言葉も祝福の言葉もなく、ローウェンは「やれやれ」とあきれ顔になった。
大半の企業には、何らかの従業員表彰制度がある。だが、ローウェンのような反応を引き起こすことがあまりに多い。自分の価値が認められたという意義を従業員に抱かせるどころか、マネジャーのチェックリストの項目を1つ増やすだけで、従業員の業績とは何の関連性もない。
一部の企業は、たとえば重要なイニシアチブを考案してリードした人、企業の価値観を文字通り「体現した」人、あるいは重要なインパクトをもたらした人に特別な賞を与えて、もっと意味のある制度にしようと試みている。
しかし、このやり方にも問題はある。少数の選ばれた人々に賞を与えるエリートのための制度に見えて、大多数の従業員は蚊帳の外に置かれたような、見過ごされたような気分になる。
マネジャーが、より広い範囲で従業員に「自分の価値が認められている」と感じさせることができれば、メリットは大きい。アダム・グラントとフランチェスカ・ジーノの研究では、マネジャーから感謝されると従業員の生産性が向上することが明らかになっている。最近の別の研究によると、メンバーが「自分は同僚から尊敬を得て、評価されている」と思っているチームは、業務をよりよく遂行するという。
だが、我々はこれまで合計50年以上、組織の改善に取り組む中で、多くのマネジャーが、従業員に「自分の才能や貢献が認められ、評価されている」と感じさせることに苦労しているのを見てきた。
この問題を追究するため、我々はある企業の協力を得て、評価と感謝を表す企業側の努力がどう認識されているかについて徹底的に調査した。このプロジェクトでは、従業員とマネジャーの両者を対象に、フォーカスグループ、質問票による調査、学習セッションを実施した。
その結果、上司の側は従業員に対して彼らの価値を認めていると示すことは難しいと感じているのに対し、従業員の側ではかなり簡単なことだと思っていることがわかった。