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フェイスブックが世界中で絶大な影響力を発揮する中、プラットフォーマーが不適切なコンテンツにどう対処すべきか、という議論が盛んである。ザッカーバーグは、同社の「最高裁判所」と称する監視委員会を設置することで、ヘイトスピーチや偽情報などを取り締まると約束した。しかし有識者からは、この施策による効果を疑問視する声がいくつも上がっている。


 フェイスブックが、コンテンツ・モデレーションのために設置すると発表していたグローバルな監視委員会が、あと少しで現実になりそうだ。

 2020年1月28日に公表された同委員会の細則は、テクノロジー業界にとって、前例のないコーポレートガバナンスの青写真となる。フェイスブックが、ヘイトスピーチや偽情報といった問題をみずから是正できるのか疑問視する声がある中、この委員会の意思決定プロセスに注目することが重要だ。

 マーク・ザッカーバーグCEOが、フェイスブックの「最高裁判所」を設置して、不適切な疑いのあるコンテンツについて判断を委ねる計画に言及したのは、2年前のことである。

 フェイスブックは当時、2016年米国大統領選に介入したケンブリッジ・アナリティカが、フェイスブックの個人情報を不正利用していた問題や、ミャンマーでのジェノサイド(集団殺害)がフェイスブックの煽動的な投稿によって悪化した問題などで、窮地に陥っていた。

 信頼失墜に追い討ちをかけるように、米国議会からも厳しい目を向けられるようになった。その一方で、ヌードディープフェイクを禁止するルールは、言論の自由を侵害するものだとして、ユーザーから大きな批判も浴びることになった。

 そこでフェイスブックは、こうした判断を監視委員会に任せたいと考えた。細則によると、フェイスブックの担当チームが問題投稿を削除した場合、ユーザーは異議を申し立てることができ、最終的に監視委員会が判断を下す。委員会は40人のメンバーからなり、フェイスブックはその決定を7日以内に実行しなければならない。

 監視委員会は、既存のコンテンツポリシーについて「助言的意見」や是正勧告を出すこともできる。こちらは拘束力がないが、フェイスブックは、どのような対応をしたかを公表することになっている。また、フェイスブックは監査委員会の活動費として、6年間で1億3000万ドルを独立した法信託に拠出する。この信託を撤回することはできない。

 だが、監視委員会のメンバーはフェイスブックが選任する。このため委員会は、フェイスブックに忖度するメンバーだらけになってしまう恐れがある。

 また、2019年1月に発表された設立憲章には、監視委員会は、「コンテンツに関する処分を見直し、フェイスブックのコンテンツポリシーおよび価値観に一致する判断をする」と定められている。もし監視委員会が、シリコンバレーが夢見る価値観を繰り返すだけの存在になれば、世界のユーザーに信頼されるものにはならないだろう。