
ビジネスを円滑に進めるうえでパートナーとの信頼関係が不可欠だが、それは簡単なことではない。筆者らの研究によると、相手が信頼できるか否かを判断する基準は、その人が持つ文化的背景に応じて明確に異なるという。本稿ではまず、北米・欧州、東アジア、中東・南アジア、中南米という4つの地域それぞれにおいて、どのように信頼性が判断されているかを論じる。そのうえで、異文化のパートナーと信頼を構築するための具体的なアプローチを紹介する。
信頼とは、ビジネス上の関係を築くための接着剤のようなものだ。ビジネスパートナーが互いに信頼し合えれば、相手から搾取されることを避けるための自衛に費やす時間とエネルギーが少なくて済む。交渉で双方が得られる経済的な結果も、より好ましいものになる。
では、マネジャーたちはどのようにして、社外のビジネスパートナー候補が信頼できるか否かを判断しているのか。その意思決定の判断のプロセスに、文化はどのように影響するのか。
これらの問いに答えるために、私たちは世界の4地域の33ヵ国のマネジャー82人に聞き取り調査を行った。その4地域とは、世界銀行によりグローバル経済の牽引役と位置づけられている地域――東アジア、中東・南アジア、北米・欧州、南米である。調査対象のマネジャーの性別や年齢、業種や担当職種はさまざまだ。
私たちが尋ねた問いは、「あなたの文化圏では、ビジネスパートナー候補が信頼できるかをどのように判断していますか」というものだ。それに対する回答を見ると、信頼性の判断基準が文化によってはっきり異なることが浮き彫りになった。この研究成果は、『インターナショナル・ジャーナル・オブ・コンフリクト・マネジメント』誌に発表した。
同じ文化圏の人すべてが同じ行動を取るわけではないが、文化圏による相違に着目することにより、本稿の共著者の一人(ブレット)が過去に行った研究に基づき、いくつかの結論を導き出せる。
マネジャーがどのような基準で相手の信頼性を評価するのか、そして、評価の材料となる情報をどのように集めるかの地域ごとの違いは、2つの文化的要因によって決まる。
1つは、その文化圏において、人々が日々の対人関係で見知らぬ人を信頼することに、どのくらい積極的か。もう1つは、いわゆる「文化の窮屈さと緩さ」だ。具体的に言うと、その文化で人々の社会的行動がどのくらい厳しく監視され、社会規範の逸脱がどのくらい厳しく制裁を加えられるかに関する度合いのことである。
以下では、私たちの研究を基に、それぞれの文化圏の特徴を紹介したい。そして最後に、異文化圏の人たちとビジネス上のパートナーシップを確立したいマネジャーが学ぶべき教訓について論じる。