
イーロン・マスクほど、良くも悪くも世間の注目を浴びる経営者はいないだろう。彼が率いるテスラも同様で、その取り組みは必ずと言っていいほど議論の的になる。ただし、この会社が消費者からも投資家からも高い支持を得ていることは事実だ。筆者らはテスラに関する詳細な研究を通じて、多くの人には狂気に見える戦略の中に、イノベーターにとって普遍的な2つの教訓を見出した。
テスラほど、嘲笑と崇拝の両方の的になる企業はない。
電動ピックアップトラック「サイバートラック」のようなプロダクトを発表すると、賛否両論が巻き起こる。批判派は、「やっぱり創業者のイーロン・マスクはちょっと変だ」「こんなもの売れるわけがない」と言い立てるが、ファンはきちんと行動する。サイバートラックは1ヵ月で20万台のプレオーダーを得た。
この数字を、世界で最も売れているフォード・モーターのピックアップトラック「F-150」と比べるとよい。2018年の世界での販売台数は100万台をわずかに超える程度だった。
議論はさておき、テスラが自動車業界を電気自動車(EV)時代へと移行させ、その一方で、売上高を一貫して伸ばしてきた(2019年は200億ドルを超えた)のは間違いない。2020年初め、テスラはトータルリターンと収益拡大、長期的な株主価値の点で最高の自動車メーカーという評価を受けた。多くの人には狂気に見えることにも、一定の手法があるはずだ。
筆者らはテクノロジーとイノベーションの研究者として、イノベーターが新しいテクノロジーをどのように商業化するのかを研究してきた。マスクをはじめ、テスラの共同創業者であるJ. B. スタウベルなど主要幹部の話も聞いた。
その結果、一見したところ波乱だらけに見えるテスラのイノベーション戦略には、実のところ、イノベーターにとって普遍の教訓が含まれていることがわかった。特に注目すべきなのは、アイデアにサポートを獲得する方法と、新しいテクノロジーを商業化する方法である。
テスラのイノベーション戦略を理解するためにはまず、同社には2つの大きな柱があることを認識する必要がある。1つは、「サイバートラック」や「ロードスター2.0」(テスラによると史上最高の加速性能を持つという)の発表会のような派手なイベントをぶち上げること。もう1つは、コアプロダクトである「モデルS」「モデルX」「モデル3」「モデルY」に莫大な投資をすることだ。
前者の目的は、商業化のためのリソースを獲得すること、後者の目的は、アイデアを実際に商業化することである。それらが一緒になって、「市場にイノベーションをもたらす」という最大の目標達成を目指している。