
プロジェクトの成功を左右するのは、いつ始めるべきかを見極めることである。早すぎても遅すぎても、失敗する可能性が高い。また、一度始めてしまうと打ち切ることも簡単ではない。自社の貴重なリソースをどのタイミングで投入すべきなのか。筆者らはエベレット・ロジャーズが提唱した「Sカーブ」に基づき、プロジェクトの成功可能性を判断するための6つの問いを提示する。
プロジェクトを成功させるカギを握るのは、いつ始めるべきかを正しく見極めることだ。しかし、ほとんどの企業は、その判断ができる戦略的な能力を育めていない。プロジェクトを開始するのが早すぎると、予定した期限になっても完了しない可能性が高い。それどころか、下手をすればプロジェクトが失敗に終わる。
その典型がグーグルの眼鏡型端末「グーグル・グラス」だ。このプロジェクトは2013年4月15日にスタートしたが、2015年に打ち切りになった。その2年間でほとんど進歩がなく、これが完成品だったのか、それとも試作品だったのか議論になったほどだった。グーグルは宣伝のためにスカイダイビングやファッションショーなどの斬新な取り組みも行ったが、真に実用的な商品や革命的な商品を提供することはできずじまいであった。
対照的なのがアップルのiPhone(アイフォン)だ。同社のスティーブ・ジョブズ会長(当時)に対して、このような製品を開発してはどうかという提案がはじめてされたのは、2001年のことだった。ジョブズはそのアイデアが気に入った。特に、通信業界に地殻変動を起こせる可能性に心を揺さぶられた。当時、通信業界は最も収益性が高く、最も急速に成長している産業だった。しかし、ジョブズはそのビジョンの実現に向けたプロジェクトにゴーサインを出さなかった。
ジョブズは幹部チームにきっぱり言い渡した。アップルの関心とエネルギー、そして重要な資源は、2つの戦略上の優先分野に集中させるべきだ、と。その2つの分野とは、音楽を聴くための新しい方法であるiTunes(アイチューンズ)とiPod(アイポッド)だ。
しかしその一方で、数人のエンジニアにスマートフォンのコンセプトをさらに探求させ、試作品をつくらせて、ほかの通信企業との連携を模索した。そして3年後の2004年にようやく、正式なプロジェクトがスタートした。このプロジェクトが大成功したことは、ご存じの通りだ。
この2つの例から明らかなように、どの段階でプロジェクトに自社の希少な資源を投入するかという選択は、戦略上きわめて重要な意味を持つ。しかし、この重要な判断を下す際に役立つ、マネジメント上の枠組みは存在しない。
プロジェクトマネジメントで
「Sカーブ」モデルを実践する
エベレット M. ロジャーズが広めた「Sカーブ」の枠組みはもともと、イノベーションが市場に浸透し、採用されて、広く拡散する速度を明らかにするためのものだった。本稿執筆者の一人(ジョンソン)は、個人の学習と発達のプロセスをモデル化するために、この考え方を用いた。そして、以下で述べるように、それは、意思決定者が新しいプロジェクトを開始すべき時期を見極め、その後の進捗をモデル化するためにも役立つ。
Sカーブの底は、ゆっくりした低成長の段階だ。「ゆっくり」と言っても、あくまでも相対的な話にすぎない。イノベーションと変化が急速に進む時代に、過度に歩みが遅いことは誰にも許されなくなっている。それでも、企業はまずそれなりの時間を費やして、新しいアイデアを探索し、プロジェクトの可否を検討すべきだ。
この段階では、あまり多くの資源を投入しない。ここで目指すのは、アイデアに成功の可能性があるかを明らかにすること。具体的には、以下の6つの基本的な問いに答えることが必要である。