
リーダーはみな、イノベーションが大好きだ。世の中はイノベーションの方法論が書かれた本や記事であふれ、経営者の多くがイノベーション不足を課題に挙げる。しかし残念ながら、従業員の大半はイノベーションを嫌っている。そこに膨大な時間を投じて結果が出なければ、職を失うリスクすらあるからだ。筆者は、自社でイノベーションを起こしたいのなら、「イノベーション」という言葉を使うべきではないと主張する。
わかりきっていることから話を始めよう。「イノベーション」は、ビジネス界の流行語になっている。実際、あまりにも長く流行語であったため、それを取り巻くカルトが展開していると言ってもよい。
グローバルなコンサルティング会社、ボード・オブ・イノベーションの推計によると、現在購入可能なイノベーションに関する本は約7万冊ある。1日当たり20ページ読み進めるとして、全部を読み終えるのにおよそ2500年かかる。
もっと手っ取り早い方法を探しているなら、グーグルで検索してみるといい。20億件近い検索結果が出る。HBR.orgだけでも、4858本のオンライン記事と1万192件のケーススタディが載っている(本稿執筆時点)。
イノベーションに対する世間の注目度は、CEOが策定する経営計画の優先度と一致している。
2019年にPwCが実施した「第22回世界CEO意識調査」では、調査に参加したCEOの55%が「技術革新のスピード」について懸念していると回答し、不足しているスキルのトップに挙がっている。
全米産業審議会が発表した「2020年Cスイート・チャレンジ・レポート」によると、調査に参加した世界のCEO740人に喫緊の課題について質問したところ、「イノベーションを創出する文化を築くこと」がトップ3に入っている。
教室でもメディアでも役員会議室でも、イノベーションは世界中で大人気だ。
しかし、問題が1つだけある。リーダーたちはイノベーションが大好きかもしれないが、従業員の大半は嫌っているという点だ。