
中国が貿易で大きな存在感を示してきたことは、周知の通りだ。しかし、中国が国際金融に果たしてきた役割は、未知の部分が多い。そもそも、公的なデータが残されておらず、透明性が欠如しているからだ。筆者らが数年がかりで調査した結果、中国の途上国融資の50%以上が報告されていないことが判明した。本稿では、中国マネーへの依存による「隠れ債務」と「隠れリスク」の存在を明らかにする。
世界の貿易で中国が果たす役割については、これまでにも大きな話題になってきたし、政治的な論争を巻き起こしてきた。しかし国際金融における中国の役割については、はっきりしない部分が多い。その最大の理由は、データと透明性が欠如しているためだ。
過去20年間に、中国は世界最大の融資国の一つとなり、融資残高は世界のGDPの5%超にも相当する。そして、こうした融資のほぼすべてが、公的な融資、つまり中国政府か国有金融機関によるものだ。
筆者らは、包括的かつ新しいデータセットに基づく研究を行い、中国が途上国に対して、これまで知られているよりもはるかに巨額の融資してきたことを明らかにした。中国がそれを意図的に過少報告してきたことは、「隠れ債務」の問題を引き起こしている。債務国も国際機関も、世界の国々がどのような条件で、どのくらい中国に借金をしているのかを、きちんと把握していないのだ。
中国の政府と国有企業は、世界150ヵ国以上に対して、直接融資と貿易金融合わせて約1兆5000億ドルを融資してきた。これにより中国は、世界銀行や国際通貨基金(IMF)も上回る世界最大の公的債権者となった。その融資額は、経済協力開発機構(OECD)の債権国の融資額合計よりも多い。
ところが、その結果生じる債務の流れや債務ストックについては、公的データがまったく存在しない。中国は海外融資活動の報告をしていないし、伝統的なデータ収集機関の目もすり抜けている。ムーディーズやスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)といった信用格付機関や、ブルームバーグのような情報提供サービスは、民間金融機関を対象にしており、政府が保証する中国の融資はデータ収集の対象にならないのだ。
債務国の側も、国有企業の負債についてデータを集めていないことが多い(中国の最大の融資先は途上国の国有企業だ)。さらに中国は、債権国と債務国の非公式会合であるパリクラブや、OECDのメンバーにもなっていない(どちらも政府の融資活動についてデータを集めている)。
こうしたデータ不足の問題に対処するため、筆者らは数年がかりのデータ収集活動に乗り出した。そして学術機関やシンクタンク、政府機関が作成した数百の一次料と二次資料からデータをまとめた(これにはCIAが持つ歴史的情報が含まれる)。
こうして構築されたデータベースによって、中国の海外における債務ストックと債務の流れについて、初の包括的な全体像が明らかになった。これには、1949年の中華人民共和国の建国から2017年までに行われた約2000件の融資と、約3000件の無償資金協力が含まれる。そのほとんどは、融資先の国でインフラやエネルギー、鉱山業といった大規模事業の資金調達を助けてきた。