
これほどの破壊的変化に直面しながら、なぜ多くの企業が変革に踏み出せないのか。イノベーションには失敗がつきものだと頭では理解しているのに、なぜリスクを取れないのか。心理学によると、人は本能的に、ネガティブな想像や出来事により強い影響を受けるという。筆者は、この「ネガティブ・バイアス」が組織変革を妨げていると指摘する。
ある学術研究を目にしたら、これまで認識してはいたが理解できてはいなかった多くの矛盾や問題、課題に対して、ぴたりと当てはまる示唆が得られた――こんな経験が、読者の皆さんにも時々あるのではないだろうか。
私がそれを経験したのは、最近刊行されたThe Power of Bad(未訳)を読んだときである。本書では、高名な研究心理学者のロイ F. バウマイスターと、受賞歴のあるジャーナリストのジョン・ティアニーという2人の著者が、人生、愛、子育て、政治などについて、社会科学の観点から教えを授ける。
だが、私にとってこの本は、ビジネスとリーダーシップについて長年取り組んでいる一連の疑問に対し、はっとするような示唆をくれる1冊であった。すなわち、なぜこれほど多くの組織が――心がけはどれほど素晴らしくても――自己変革に苦労しているのかという問題の核心に迫る疑問であり、たとえば以下である。
すでに地位を確立して資金豊富な大企業の多くが、急激な技術進歩と市場での目まぐるしい破壊的変化を前にしながら、なぜいつまでも慎重で保守的なのか。変革はなぜ、それほど難しいのか。
イノベーションは、失敗を経ずして成功することはめったにない。新しい製品の投入や、古いプロセスの再考においては本質的に、リスクテイクと実験が不可欠であり、その過程で多少のトラブルは避けられない。企業幹部の多くはこれらを事実として受け入れているにもかかわらず、なぜ失敗をひどく恐れるのか。
前向きで情熱的な部署やプロジェクトチームで、たった一人の非協力的なメンバー、一つのネガティブな声が、集団の意欲を大きく下げるのはなぜか。一つの腐ったリンゴが、全体を台無しにするのは必然のように見えるのはなぜか。
上記を含め、戦略、組織文化、創造性などをめぐる諸々の疑問について考えるうえで参考となるのは、ティアニーとバウマイスターが提唱する、人間の心理を決定づける一つの法則である。すなわち、「ネガティブ」は「ポジティブ」よりも影響力が強い、ということだ。
著者らによれば、私たち人間は生まれつき「ポジティブな出来事や感情よりも、ネガティブな出来事や感情により強く影響を受ける普遍的な傾向がある」。人は「批判の言葉一つで大きなショックを受けるが、たくさんの称賛を浴びても冷静でいられる」。そして、「人込みの中で、敵意に満ちた顔を目にとめるが、親しげな笑顔には総じて目を向けない」という。