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能力的には条件を満たしていながら、性別や人種を理由に採用が見送られる事態を防ぐために、人材選考のプロセスを匿名化する組織が増えている。筆者らはこの効果を検証するために、ハッブル宇宙望遠鏡のプロジェクト応募に関する調査を行った。すると、応募者の情報を匿名化することで、女性の採用率が上昇することが判明した。


 性別、人種やその他の属性をめぐるバイアスの存在について認識が広がる中、人材選考のシステムに「見えない化」を取り入れる組織が増えている。採用プロセスや資金申請などにおいて、応募者の詳細を匿名化すれば(名前を伏せるなど)、過小評価されている層からの候補者をもっと多く選ぶことにつながるとされている。

 だが、このやり方の有効性を裏づけるエビデンスは、科学界を動かすことはなかった。

米国では理工系の労働人口に占める女性の割合は28%のみであり、彼女らは男性の同等職者に比べて、給与研究費の支給額論文での被引用数が少ない。米国立衛生研究所を含む一部の機関は少なくとも10年前から、性別バイアスを減らすために応募の匿名化を検討しているが、実行に移される動きはない。

 先頃発表された筆者らの研究論文では、科学研究の申請を審査する際に、匿名化が性別バイアスの軽減につながることを立証している。具体的には、ハッブル宇宙望遠鏡のプロジェクト応募に際し、応募者の性別を示す情報(ファーストネームなど)を伏せると、性別が判明している場合に比べ、女性の応募の採用率が高かったのである[訳注]

 匿名評価が最も大規模に行われた一例として、米国の交響楽団によるものがある。1970年代に複数の交響楽団は、オーディションの手順を変更し、演奏者を幕や遮蔽物の裏側から審査するようになった(審査員が演者に背を向けている、人気のオーディション番組『ザ・ボイス』を思い浮かべればよい)。

 あるデータ分析によれば、米国の最も格式高い5大交響楽団(ビッグファイブ)における女性の割合は、1970年の5%から、1990年代には25%に増えている。1次審査のみを匿名化した場合、女性が2次審査へと進む確率は50%高まったという。

 これらの分析結果には信憑性がある。そこで筆者らは、同じことを他の分野にも適用できるのかを知りたいと考えた。なお交響楽団に関する研究では、審査をする側については、男女のどちらかが匿名化による影響をより受けやすいのかは、分析されていない。