
新型コロナウイルス感染症が蔓延したことで、自分の身近な人が感染することは十分に想定される事態だ。いま、彼らとどう接するかが問われている。社会的に拒絶したり、うわさ話のタネにしたり、身体的な暴力を振るったりと、感染症がもたらす苦しみはスティグマ(負の烙印)によって悪化するのだ。私たちの敵は感染者ではなく、ウイルスそのものであることを忘れてはならないと筆者は言う。
新型コロナウイルス感染症(Covid-19)に罹患し、回復した人があなたの周りにまだいなくても、すぐに現れるはずだ。友人や家族、隣人、同僚かもしれない。そして、その人たちをどう扱うかによって、私たちはいずれ歴史に裁かれるだろう。
残念なことに、歴史上のすべての主要な感染症流行がもたらした苦しみは、スティグマ(負の烙印)によって悪化していることが、私や他の専門家らの研究で明らかになっている。そして、いま世界的に大流行している新型コロナウイルス感染症についても、確実に同じことが起きるだろう。
スティグマは進化的な反応だ。私たちは生来、自分に病気をうつす可能性のある人と物理的な距離を置く傾向がある。
伝染病にかかっている可能性がある人と接触し続けることを避ける、「寄生回避」と呼ばれる反応が備わっているのだ。この反応によって、自分の健康を脅かすものかどうかにかかわらず、嘔吐や皮膚病変など疾病の兆候に対して嫌悪感を抱く。
それには物理的な側面だけでなく、道徳的な側面もある。私たちは、悪いことは悪い人に起こると信じがちだ。「公正世界仮説」と呼ばれるもので、ある病気に感染した人は、それに値する悪い行いをしたと考える。
新型コロナウイルスに感染した人たちは、手をしっかり洗わなかったり、顔を触りすぎたり、ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)を十分確保しなかったのかもしれない──。このように考えることは慰めとなり、自分の運命を自分で支配していると思える。正しく行動していれば感染はしない、というわけだ。
しかし、私たちは公正な世界に生きているのではない。正しく行動し、手を洗うのに20秒ではなく60秒かけても、新型ウイルスに感染してしまう。