Left: Hagen Hopkins/Getty Images; Right: Jun Sato/Getty Images

新型コロナウイルス感染症は世界中で猛威をふるい、いまだに先の見えない状況が続いている。事態の悪化を防ぐために、リーダーには慎重かつ大胆な決断が求められるが、それを実践できる人とできない人は何が違うのか。筆者らは、NBAコミッショナーのアダム・シルバーと、ニュージーランド首相のジャシンダ・アーダーンが発揮した素晴らしいリーダーシップから、危機を乗り切るうえで有効な4つの教訓を導いた。


 現在、コロナ禍が広がる速度と規模は、重要組織のリーダーに途方もない課題を突きつけている。

 なぜこれほど多くのリーダーが、断固たる行動と誠意あるコミュニケーションの機会を逃しているのかは、容易に理解できる。しかし、これほど厳しい時期ならばリーダーシップは破綻するのも無理はない、と考えるのは誤りである。

 全米バスケットボール協会(NBA)のコミッショナー、アダム・シルバーについて考えてみよう。

 彼は3月11日というかなり早い段階で、プロバスケットボールリーグのシーズン中断という、当時としては驚きの措置を断行した。シルバーの決断は、中国を除く地域では最も早期に注目を浴びた対応の一つである。

 事態がきわめて不透明な時期に、彼は中断に踏み切った。そして偶然にも3月11日は、世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルスを「パンデミック」と公式に宣言した日でもある。

 状況が不透明なとき、リーダーは「人間の本能」と「マネジメントの素養」が原因で、状況がもっと明らかになるまで行動を先延ばしして、脅威を軽視する場合がある。これは、間違った対応をして、人々をいたずらに不安にさせることを恐れるからだ。

 だが、そのような振る舞い方は、新型コロナウイルスが突きつける「リーダーシップテスト」での落第を意味する。なぜなら、脅威の程度が明らかになる頃には、危機管理でひどく後れを取ってしまうからである。

 リーダーがこのテストで合格するには、緊急性と正直さを持って、反復的に動くことが求められる。その際、間違いは不可避であることを認識し、失敗時には責任の追及ではなく、軌道修正によって対処すべきであると心得ていなければならない。

 事態がこの上なく不明瞭なときに――米州政府が集会を規制し始めるかなり前に――シルバーが断行した措置は、ウイルス感染の進行にほぼ間違いなく変化を及ぼしたであろう、一連の出来事のきっかけとなった。

 100万人以上のNBAファンはいま、試合で罹患する可能性を回避できている。加えて、この決断は強い波及効果をもたらした。

 全米大学体育協会(NCAA)の伝統的な「3月の熱狂」と呼ばれるバスケットボール・トーナメントは中止した。ナショナル・ホッケーリーグ(NHL)、野球のメジャーリーグ(MLB)を含む複数のスポーツリーグも運営を停止。ボストンマラソンの開催日も変更された。

 スポーツ界でこの措置が取られたという事実にこそ、重要な意味があったのかもしれない。NBAは、2019年には80億ドル超を稼ぎ出し、過度の慎重さとは無縁の、優れた身体能力と競争の激しさで知られる組織である。その彼らが、当時としてはかなり慎重で自制的に見える行動を取った。

 このことに、人々は考えさせられたのだ。

 では、政治家はどうだろうか。新型コロナの影響が広く明らかになる前に、シルバーと同様に勇気を発揮できた例はあるのだろうか。