歴史の教訓

 歴史を振り返れば、経済的な苦境は、優秀な従業員やリーダーを限られた期間で、幅広く採用できる機会をつくり出してきた。

 たとえば、多くの企業が困難に直面していた1940年代後半、当時は創業間もない電子機器メーカーだったヒューレット・パッカード(HP)も業績が低迷し、財務状況は逼迫していた。しかし、同社の伝説的な共同創業者ウィリアム・ヒューレットとデイブ・パッカードは、閉鎖された、あるいは閉鎖間近の米軍の研究所から優秀なエンジニアが大量に流出していることに気づき、これほどの機会を逃してはならないと考えた。

 経営が苦しい時期に新規採用を続ける余裕があるのかと問われて、彼らの答えは簡潔だった──採用せずにやっていけるはずがない! 後年、HPが長年にわたり成功してきた最大の要因について聞かれると、共同創業者の2人はいつも、外部の経済状況に関係なく人材に投資してきたことを挙げた。

 危機の最中は近視眼的で非合理的になりがちだが、最高のリーダーと組織は冷静さを保ち、危機を利用して競争から抜け出し、けっして後ろ向きにならない。例えるなら、消防士が古い建物を消火しているあいだに、新しい建物を設計する建築士を連れてくるようなものだ。

 ハーバード・ビジネス・スクールのランジェイ・グラティ、ニティン・ノーリア、フランツ・ウォールゲゾーゲン(Franz Wohlgezogen)は、こうした長期的思考の利点を考察するために、過去3回の不況について4700社を分析した。すると9%の企業が、「進歩的な」視点を持ち続けたおかげで、より優位な地位を獲得していた。

 これらの企業は人員削減も行ったが、いつ、どの部門で行うかを極めて慎重に選択した。それ以上に重要なのは、戦略的な投資を続けたことだ。採用か人員削減かという二者択一ではなく、終戦直後のHPのように両者を平行して考えながら、賢くやれば両立できることを理解していた。

 残念ながら大半の企業が、業績が悪化した時期は採用を全面的に凍結するという過ちを犯す。2008年の世界的な金融危機に際し、ボストン コンサルティング グループ(BCG)と欧州人材管理協会(EAPM)は、30ヵ国以上の人事部門の上級幹部90人を含む3400人のエグゼクティブを対象に、企業の対応を調査した

 その結果、最も多かった行動(あるいは反応)は採用の縮小だった。一方で回答者は、2008年の前の危機の対応策(22項目)から最も効果的なものを3つと、従業員のコミットメントに最もよい影響を与えたものを選んだ。彼らが最も高く評価した対策の一つは、競合相手から優秀な従業員を引き抜いたことだ。

 こうした不合理さは珍しくない。そして、合理的な判断を維持できる経営者は、この機会を利用できる。