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起業家の多くは、事業を成功させるために人生のすべてを投じる。彼らが友人との関係や健康な生活を犠牲にした話は世の中にあふれているが、その結果、慢性的なストレスや不安を抱えている人も少なくない。この状態は健全とは言えず、本人の心身の健康を害するだけでなく、チームメンバーにも悪影響を与えかねない。筆者らの研究により、自己認識を高めて現状を正しく把握することが、この問題の解決につながることがわかった。


 起業家は、自分が構築している事業に多大なる情熱を注ぐものだ。時にはチームや投資家を失望させることを恐れるあまり、自身の会社が持つ可能性を形にするためなら、ほとんどどんなことでもやる。起業家のブログやスタートアップの事後分析には、事業のために睡眠や友人関係、家族関係、運動、栄養などを犠牲にする話があふれている。

 新規事業を何よりも優先すると、慢性的なストレスにつながり、それは起業家の肉体的、精神的な健康に大きな打撃を与える。カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究によると、起業家はそもそも一般の人たちよりも精神衛生への影響を受けやすい。また筆者らの経験からも、彼らのあいだで不安、自己不信、抑うつ、孤独感が蔓延していることがわかっている。

 それでは、スタートアップのために自分を犠牲にすることが、成功の必要条件ではないとしたらどうか。さらに、起業に伴うストレスをより効果的に解決できる方法を指導し、起業家が慢性的な問題を抱えずにすむとしたらどうだろうか。

 私たちは2019年、マサチューセッツ工科大学スローンスクール・オブ・マネジメントのアクセラレータープログラム「delta v」にて、この疑問に答えるための取り組みを実施した。起業家84人とチームメンバーがビジネスを構築しながら個人の幸福を優先できるようにするために、過去に類のない予備的な自己認識プログラムを構築し、その結果を測定した。

 するとプログラム終了までに、起業家のコホート(集団)の93%が、自己認識はビジネスをより成功させるうえで役立つと感じるようになった。参加者の一人は、「何よりも、人間関係と文化を構築するための中立的な共通言語をチームが得た」と話した。