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新型コロナウイルス感染症と最前線で戦う医療従事者は、過酷な環境に身を置いている。重症患者への心配、自分や家族が感染することへの恐怖、救えなかった命が増えていく悲しみなど、さまざまな感情に襲われながら、それを表現する時間すらない。医療従事者は、患者のことが最優先になり、自分を犠牲にしがちである。しかし、みずからの感情に細心の注意を払い、EI(感情的知性)を高めることは、自分自身のためだけでなく、チームや患者のためでもある。本稿では、EIを構成する4つの領域それぞれをどのように実践すべきか解説する。


 麻酔科医の持っている端末のブザーが鳴り始める。新型コロナウイルス感染症の重症患者に気管挿管を行うための緊急呼び出しだ。感染リスクを伴う、危険な業務である。新型コロナウイルスの感染が拡大する中で、このような呼び出しが増えている。

 それまで想像してもいなかった過酷な日々が続いている。重症患者への心配、わからないことだらけの状況への不安、自分自身と家族の感染リスクに関わる恐怖、多くの死者が出ていることへの悲しみの気持ちを感じ続けているが、そうした感情を表現する時間すらほとんどない。

 端末のブザーが鳴ると、トレーニング通り、てきぱきと個人防護具を身につける。自分の手元に防護具があって幸運だったと、思いながら。

 難しい処置が終わったあとも、情緒的に厳しい状態は続く。多くの医師や看護師、技師、清掃員など、医療の最前線で働く人や、医療分野のリーダーが、こうしたことを経験している。その影響は業務時間外にも及び、不眠や集中力の低下、活力の減退などの問題を生む場合もある。コロナ禍は、ただでさえ高い医療従事者の燃え尽きリスクに拍車をかけている。
 
 筆者らは、新型コロナウイルス危機以前から医療従事者と関わり、計29年にわたってEI(感情的知性)に関する研究に携わってきた。私たちはその経験を通じて、医療従事者がみずからの感情に注意を払うことの重要性に気づいた。

 彼らが仕事で活躍し続け、自身の健康を保つために、それが不可欠なのだ。その重要性は、危機のときにはとりわけ大きい。

 医師などの医療従事者のEIが高まることのメリットは、いくつかの研究によっても裏づけられている。医療従事者に対する患者の信頼が高まったり、患者の満足度が向上したり、医師の燃え尽きが減ったりするなどの効果が見られているのだ。

 この点は、金融や製造など、医療以外の分野のエグゼクティブたちに関する研究とも合致する。ほかの分野でも、EIが高まると、生産性の向上にはじまり、仕事への満足度の向上にいたるまで、さまざまな効果が期待できることがわかっている。

 EIは、4つの領域に分類することができる。いずれも、いまの状況で医療従事者や医療分野のリーダーにとって特に重要なものだ。その4つの領域とは、自己認識、自己管理、社会性、人間関係管理である。