●柔軟に改善できる応急プロセスを構築する
米国でも新型コロナウイルス感染症がじわじわと広がりつつあった3月初旬、ペンシルバニア大学センター・フォー・ヘルスケア・イノベーションに1件の緊急要請が舞い込んできた。「月曜日までに、一般市民向けの検査場を設置してほしい」
その日は金曜日だった。それまでの検査施設は、曝露リスクを最小限に抑えたり、大量の感染者に対応したりすることを念頭に設計されていなかった。
そこで私たちは、ヘルスフェアとドライブスルーのコンセプトを組み合わせて、24時間もしないうちに、ある駐車場を検査場に変えた。そこで使ったのは、どこにでもあるロープとコーンとA型ホワイトボードだ。
検査希望者との接触を最小限に抑えるため、彼らの車が検査室となった。徒歩で検査場に来た人については、歩道にガムテープでマークをつけて、ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)を確保した。患者登録には、各人が持参した身分証明書の写真を使い、検査後の指導や結果確認方法については、テキストメッセージで提供する仕組みをつくった。
現場はてんてこ舞いだった。幸い、その駐車場には公共のWi-Fiが入っていて、徒歩で検査に来た人たちが、その場で検査の申し込みをする際に必要不可欠な役割を果たした。
応援として派遣されてきた医療スタッフと大学の警備員が、検査希望者のスムーズな流れを維持する手伝いをしてくれた。また、喜び勇んで応援にきてくれた同僚たちは、絶妙なタイミングでコーヒーやドーナツ、カイロ、ポンチョ、ペーパータオルなどの差し入れを持ってきてくれた。
こうした目に見えるサポートは、最前線の医療従事者を大いに元気づけた。必要最小限の機能を備えた検査場は、スタッフの独創性と熱意の賜物だった。
●少人数グループで活動する
私たちのグループは、センター・フォー・ヘルスケア・イノベーションの3人が、10人弱の医療従事者を指揮する体制をとっていた。その一方で、私たちは迅速にやり方を変えて、現場を動かす権限を与えられていた。
たとえば、徒歩で来た人のプライバシーをもっと確保すべきだと考えると、すぐに5個のコーンを動かして、もっと人気がない場所に検査希望者の列を誘導した。午後になって徒歩で来る人が減ると、そこを担当していたアシスタントたちは、自動車の列の整理に回った。
さまざまな手順は印刷するのではなく、ホワイトボードに図を描いてスタッフに示した。手順や予診の質問は、刻々と変わる検査基準によって調整する必要があったので、簡単に書き直せるホワイトボードを利用したのだ。
全員が足並みを揃えて、状況の変化に迅速に対応する方法はほかにもあった。検査キットの在庫を随時カウントして、消費ペースを把握することは、計画立案や1日の予測を立てる役に立った。
リーダーがランダムに各所を回ることも、安全上の懸念や非効率を解決するのに役立った。たとえば余計な症状の問診は、不要な遅れをもたらすし、患者をいら立たせるだろう。
素晴らしいアイデアは、ミーティングで称えられ、共有された。必要に応じてさまざまな部門のサポートに入る役割をつくったり、車のフロントガラスにホワイトボード用のペンで連絡事項を書いてコミュニケーションを図ったりといったことも、現場から出てきたアイデアだ。こうした工夫が、翌日の作業にすぐに反映された。
このドライブスルー(またはウォークスルー)モデルは、コストがかからないし、再現しやすい。翌週には、感染者急増を見越して設置された診察テントに応用された。さらに2ヵ月後、地域の医院や診療所が再開されたときは、患者が駐車場からテキストメッセージで診察の受付手続きをする手法に応用された。
最終的には、さまざまな天候に対処するため、検査場は建物内に移されたが、低接触型の診察と、「玄関またはそれより前に」患者を迅速にトリアージする方法は、コロナ危機後も有用になるだろう。