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新型コロナウイルス感染症の影響で、経済は大打撃を受けている。経営が悪化すると当然のように解雇に踏み切る経営者もいるが、それは最初の選択肢ではなく、最後の手段であるべきだ。優れた企業は、従業員を簡単に使い捨てにできる資産としてではなく、信頼できるパートナーとして見ている。


 ハーバード・ビジネス・スクールの学生3人がこのほど発表し、MBA取得者1200人以上が署名した「ビジネスリーダーへの公開書簡」は、フォーチュン500のCEOらに宛てたものだが、不可能なことを求めているように思える。

「いまこそ従業員のことを第一に考えるべきだ」と書簡は要請している。「彼らの雇用を維持し、必要に応じて再配置し、最も重要なことは、報酬を支払うことだ」

 こうした忠告は、問題の兆候が少しでもあれば従業員を解雇するという、米国のビジネスの慣行に反している。たとえば、ボーイングは景気に応じて大量の従業員を定期的に削減している。現在の新型コロナウイルスのパンデミックに対しては、従業員の10%を削減した。

『フォーブス』誌は、5月末時点で人員削減を行った企業のリストをまとめた。リストが何ページにもわたって続いているのも、驚きではない。

 しかし、公開書簡に署名したMBA取得者らは、あることを知っている。それは、『フォーブス』のリストに掲載された企業のほとんどが見過ごしていることだ。

 優良な企業は以前から財政的な緩和策を準備しており、危機に対処できる労働力を構築していた。そうした企業の大半は、従業員をレイオフ(一時解雇)する必要がない。このことを思い知らされたのが、2008年に始まった激しい不況の最中だった。

 本稿執筆者の一人であるビル・フォッシュは、サウスウエスト航空を利用して移動していた際、他の大手航空会社と違って同社が誰一人として解雇していないことについて、ゲート係員を褒めた。「偶然ではありません」とその係員の女性は答えた。

「他の航空会社は負債を抱えています。彼らには選択肢がありません。当社には10億ドル以上の現金があるので、あらゆる選択肢があります。私たちが開拓している新しい市場を、お知りになりたいですか?」

 しかし、危機の中で先行する企業が出遅れた企業と一線を画すのは、健全なバランスシートだけではない。ビルに対するサウスウエスト航空の従業員の反応からもわかるように、リーダーは従業員を雇い人ではなく、信頼できるパートナーのように扱っている。

 情報を共有し、従業員参加型の経営を促進する。危機が起きれば、生き残りのための革新的な方法を従業員に求める。レイオフは最初ではなく最後の手段だ。