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ECの発達などに伴い、実店舗を構える小売業は苦戦を強いられてきた。そしていま、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、景気が悪化して消費が落ち込むだけでなく、感染リスクを恐れる顧客の足が遠のくことが予想される。小売業界はこの危機を機会に変え、実店舗ならではの意義を問い直し、自社のブランド価値を高められるような、未来の店舗体験を生み出す必要がある。


 世界の小売業が、多くの課題に直面している。

 新型コロナウイルスのパンデミックの前から、実店舗を構える小売業は苦戦を強いられていた。そしていま、全国的な都市封鎖という境界空間から新たな心理的・社会的領域へと足を踏み入れることとなり、買い物客は、店舗を訪れればウイルスにさらされる機会が増えるのではないかと不安を抱くだろう。

 事態をさらに複雑にしているのが、米国が現在、正式なリセッション(景気後退)に陥っていることだ。今後数ヵ月は個人消費が落ち込むだろう。

 こうした環境にあって、「~の未来」といった記事を読むのは、まるで国際博覧会に行くような気分になる。生物学的な脅威から私たちの安全を守り、社会的活動を再開することへの躊躇を和らげ、デジタルとフィジカル双方の生活の統合を促進するための、新しいガジェットやデザインのアイデアが数多く生まれている。

 そうした心を踊らせるものは長期的に見て私たちの役に立つが、小売業がいま最も必要としているのは、有効性が実証済みで即座に導入できるソリューションだ。

 しかし、各ブランドにとって必要なのは消毒方法のチェックリストだけではない。他社と差別化し、顧客を店舗に呼び戻すための実行可能なビジョンだ。

 幸いなことに、新型コロナウイルスの流行前から革新的なオペレーションの方法が小規模で試行されていた。そうしたアプローチを検討することで、小売業はこの移行期を利用して、よりレジリエントで有意義な未来に向けて転換できるはずだ。