●完璧ではなく、幸せを目指す

 多くの人は、完璧でありたいという願望を理解できるし、そうした願望から得るものもある。しかし、私たちはしばしば行きすぎてしまう。

 現在のパンデミックの前に、人格心理学者のトーマス・カランとアンドリュー・ヒルによる研究で、手の届かない理想を追い求めて苦悩する人が増加していることが明らかになった。調査は1989~2016年に米国、英国、カナダの大学生4万人以上を対象に行われ、完璧主義がここ数十年で劇的に増加し、1989年以来33%も増えたことがわかった。

 私たちは、人生は完璧でなければならないという、現代の神話を内在化しているようだ。しかし、実際にはそれは不可能なため、深刻な不安やうつ病につながってしまう。完璧さに固執すると、みずからを失敗や情緒不安に追い込んでしまう。

 目指すべきは完璧ではなく、幸せだ。私は毎日、それが目標だと自分に言い聞かせている。

 仕事を終わらせるのに予想以上に時間がかかっても、よしとする。そして、毎晩夕食の席で子どもたちに、今日はどんなことで幸せを感じたか、何が嬉しかったかを尋ねている。

 ●失敗を好奇心を持って受け入れる

 イタリアのモデナにある有名レストラン「オステリア・フランチェスカーナ」で、ある忙しい夜にスーシェフの一人のタカがデザートをつくり始めた。パティシエが突然辞めたためだ。

 タカはレモンタルトを盛り付けているとき、誤って1つを床に落としてしまった。凍りつく彼の傍らで、シェフ兼オーナーのマッシモ・ボットゥーラがそれを見ていた。しかし、ボットゥーラは腹を立てる代わりに、そこからインスピレーションを得た。

 そうしてできたのが、いまでは店で最も人気のあるデザートの一つ、"Oops! I dropped the lemon tart"(おっと!レモンタルト落としちゃった)だ。ぐちゃっと落としたように見えるよう、緻密につくられている。

 泡立てた軽いザバイオーネの下には角切りにしたレモン、ベルガモットのゼリー、スパイスの効いたリンゴ、チリソースとレモンオイルが数滴。シチリア島沖の島で採れたケイパーは蜂蜜で甘くしてある。その上に乗せるのは、レモングラスのシャーベットと割れたビスケットだ。

 私は最近、この話に慰められている。計画通りに進む日はめったにない。4人の子どもの1人が仕事のズーム中に不意に割り込んできたり、緊急事態が起きて執筆が中断されたり。しかも、その叫び声の原因は、単に私が約束したものと違うランチをつくったことだったりする。

 私はボットゥーラのように、失敗や思いがけない出来事を、好奇心を持って捉えるように努力している。