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新型コロナウイルスのパンデミックで遠隔医療が急速に普及している。しかし、対面だからこそ築ける患者との信頼関係は相変わらず重要であり、医師が五感で得たわずかな情報が患者の命を救うことも多い。遠隔医療が医療システムを根本から変えるわけではなく、ツールの一つとして捉えるべきだと筆者は主張する。


 遠隔医療の利用は新型コロナウイルスのパンデミックの間に急増し、遠く離れた場所まで急速に広がっている。医師と患者は、医療システムを根本的に変革するような、まったく新しい両者の関係の始まりなのだろうかと思っているはずだ。

 私はそう確信していないし、米国民も同じかもしれない。遠隔医療の拡大は頭打ちになっているように見える。

 私が懐疑的なのは技術面が理由ではない。私は医療情報技術の強力な支持者で、新しい情報技術が患者とその介護者に大きな利益をもたらすと信じている。

 何年か前には、病院や医師に電子カルテ導入を促す連邦政府の取り組みを支援した。実際、医師が患者の既往歴に遠隔からアクセスできる電子カルテがなかったら、遠隔医療の有用性ははるかに低かっただろう。

 しかし、私はプライマリケアの医師でもある。患者と臨床医との信頼関係が、治療を提供し、治療を受けるうえで大きな助けになることを知っている。不安を抱えた患者を夜眠れるようにしたり、赤ん坊が病気になった母親を落ち着かせたりする信頼は、対面によって築かれた関係を通して早く、強く、はぐくまれる。

 また、十分に訓練された臨床医は、聴覚や視覚だけでなく、すべての感覚を使っていることも知っている。彼らは患者の全体を評価する。足を引きずるようになっていないか、姿勢が変わっていないか、顔色が悪くなっていないか。患者が気づいていないことや不満を感じていないことが重要である場合は多い。

 そして、患者の体に手を当てることほど、費用対効果の高い診断検査はない。私は治療可能ながんを定期検診で何度も発見しているが、それはバーチャルな世界では無理だろう。ズームを使った診察でリンパ節の硬いしこりや、脾臓や肝臓の腫れ、予期せぬ前立腺の結節(PSA値は正常)を見つけることができるだろうか。