
新型コロナウイルス感染症で世界中の人々が被害を被ったが、黒人や先住民などのマイノリティはより大きな打撃を受けた。英語を話せる白人が主役なのは病院も変わらず、医療に十分にアクセスできなかったり、英語をうまく話せずに十分な治療を受けられなかったりと、平等な機会を得にくいためだ。本稿では、データの力でこの問題の解決に挑んだ、米国のある病院の取り組みを紹介する。
新型コロナウイルス感染症により、米国では、黒人や先住民など、恵まれない立場の人々がひときわ大きな打撃を被った。
これはいまでこそよく知られていることだが、当初はそうした不平等の存在がなかなか知られず、十分に理解されているとも言えなかった。最初の頃、多くの医療機関、そして連邦政府と州政府は、新型コロナウイルス感染症患者の人口統計上の属性を把握していなかったのだ。
この実態は、人種差別を直視しない姿勢と、構造的人種差別が医療やそのほかの分野におけるデータサイエンスの扱い方に及ぼしている影響を、まざまざと見せつけるものと言える。
さまざまな研究によると、非中南米系の米国先住民、アラスカ先住民、黒人は、新型コロナウイルス感染症で入院する割合が非中南米系白人の5倍に上っている。中南米系の人たちも、この割合が非中南米系白人の4倍に達する(いずれも年齢の影響を取り除いて算出した数値)。
黒人の患者は死亡率も高い。たとえば、住民の86%超を黒人が占めている郡は、新型コロナウイルス感染症による死亡率がほかの郡より10倍も高い。
民族、言語、所得、医療保険加入状況などの面で恵まれない立場にある層全般の感染率、入院率、死亡率に、同様の傾向が見られる。この背景には、健康的な生活習慣や労働環境へのアクセスに関して、不公正が根を張っているという事情がある。
私たちは非営利の病院グループ、マス・ゼネラル・ブリガム(旧称パートナーズ・ヘルスケア)傘下の病院運営主体ブリガム・ヘルスで、早期に強力なデータインフラを構築し、新型コロナウイルス感染症が患者と病院スタッフに及ぼしている打撃について、人口統計上の属性ごとの違いを調べた。そして、そのデータをモニターで一覧できるようにし、病院の業務運営とインフラ維持に役立てるようにした。
そのうえでデータに基づき、人種差別やその他の構造的差別による弊害を和らげるために、効果的な戦略を設計した。本稿では、この取り組みを通じて得た重要な教訓を紹介したい。