
多様性が組織のパフォーマンスを高めることはいくつもの研究で証明されているにもかかわらず、米国企業の取締役会には黒人の数があまりに少ない。制度的人種差別の解消が求められるいま、この現状を見過ごすわけにはいかない。本稿では、筆者らが実施した綿密な調査に基づき、何が黒人取締役の誕生を妨げるのか、その要因が明らかにされる。また、取締役会の多様性が組織にいかなる恩恵をもたらすのか、取締役会を変革するために何をすべきかを示す。
多様性のある職場は、創造性を高め、代替案の検討を促し、幅広い情報と視点をもたらすことにより、チームが実力を発揮することを可能にする。その恩恵は、採用と従業員の定着率にも及ぶ。
こうしたプラス面を示す証拠は増え、企業の多様性イニシアチブも増えている。にもかかわらず、企業における黒人の昇進はあまりにも遅く、むしろ逆転している可能性さえある。
黒人が極端に少ない状況は、とりわけ米国企業の上層部、すなわち取締役会で顕著に見られる。新たに任命される取締役は多様になってきたものの、2019年の時点で、黒人取締役が一人もいないS&P500企業は37%に上った。ラッセル3000企業の取締役会においても、黒人が占める割合は4.1%にすぎなかった。
こうした根強い人種格差を受け、レディットの共同創業者でエグゼクティブ・チェアマンであるアレクシス・オハニアンは2020年6月、取締役会からの辞任を発表した。「私はレディットの取締役を辞任し、後任には黒人を任命するよう取締役会に促した」。その後、レディットは初めての黒人取締役としてYコンビネーターのマイケル・サイベルCEOを招き入れた。
ここ数ヵ月、ジョージ・フロイドやブリオナ・テイラー、アマード・アーベリー、レイシャード・ブルックスをはじめとする多くの黒人の死により、米国における制度的人種差別の長い歴史が厳しい注目を浴びている。現在も続く人種的不正義を是正する方法を検討するよう、企業リーダーにも圧力が高まっている。
では、取締役会に黒人が異様に少ない状況を恒久化している要因は何か。こうした格差を固定化するシステムを変えるには、どのような措置が取れるのか。
こうした問いに答えるために筆者らは、2015~16年に行った米国企業の取締役1000人以上への調査を活用した。ただし、この中に黒人/アフリカ系米国人の取締役は24人しか含まれていない。これは筆者らが回答者の多様性確保に気を配らなかったためだが、現代の米国の取締役会における多様性の欠如を反映しているとも言える。
サンプル数が少ないことから、結果の解釈は慎重に行う必要がある。その点に留意したうえで、この24人の黒人取締役の経験を出発点に、黒人取締役の誕生を妨げる制度的・社会的障害を明らかにしていきたい。