突然始まったワーク・フロム・ホーム(WFH: 在宅勤務)。経営者やマネジャーは、この新しい勤務状況で、企業やチームの生産性をいかに維持・向上させるか、という課題に直面しています。即効を狙った業務の効率化だけでなく、働き方を見直して、労働意欲や創造性などを高めていくことが大切です。今号の特集では、ハーバード・ビジネス・レビュー編集部がこの課題に挑みました。


 特集最初の論文は、今年(2020年)3~5月にホワイトカラー600人超を対象にした調査、WFH開始1年前からの業務メール等のデータ分析、リーダー層への面談を組み合わせての考察です。

 WFHのマイナス面を「一日の仕事時間の増加」「仕事のことを忘れる時間がつくれない」など、プラス面を「仕事がらみの対立が減る」「仕事への集中力が高まる」などと整理したうえで、新しい働き方への適応は経営層の予想以上に速く進んだと論じています。

 今後の経営判断のポイントは、在宅勤務の継続か、オフィス勤務への復帰か。継続の場合の検討事項として、新人研修の実施、「緩やかな結び付き」の生成、人間関係の醸成、の3点についての対応を挙げています。

 特集2つ目は、マイクロソフトが、グループ社員の日常作業を測定するシステムとアンケートを活用して、想定外の混乱や危機が人々の仕事の仕方に与える影響を分析しています。仕事はどこまで柔軟性や順応性を持てるか、リモート環境で社員間のつながりはどう変化するか……リアルタイム調査に基づいて明示し、「仕事の進め方をどう変えるべきか」について提言しています。

 専門家の長年の研究から考察するのが3番目の論文です。人は仕事の仕方において、仕事と家庭の境界を曖昧にしがちな融合型と、明確に区別する分離型に二分されます。リモートワークが長期化すると、どちらの型であっても、心理的に仕事から離れてリフレッシュすることが困難になります。そこで、型に合わせて、時間と空間の2つの面から、対処する必要があると論じます。

 4番目の論文は、かつてPCやメールなどの普及で働き方が激変した歴史を振り返ることで、現在進行中の変化の意味合いを考えていきます。多くの人の経験談が随所に入り、リアリティを持って読み進めることができます。

 オフィスは今後、問題解決や学習、交流によるイノベーション創出の場などに、その価値の比重を移していくと論じるのが、5番目の論考です。ワークスペース研究の第一人者による深い分析となっています。

 日本ではどうなっていくのでしょうか。特集の締めは、伝統的な大企業である日立製作所の東原敏昭社長へのインタビューです。緊急事態宣言の解除後、同社はいち早く在宅勤務の継続方針を表明。働き方の制約を取り払い、ジョブ型雇用も推進しています。今夏には約1兆円規模の買収を完了し、従業員数32万人のうち外国籍が過半を占め、名実ともにグローバル企業となった日立は、人事改革と経営改革を同時に進めています。その真意を伺いました。