DXに必要なケイパビリティーを死角なく補完
── 他にはどのようなアプローチを行っていますか。他業界の例はありますか。
菊山:デジタル化は業界の垣根もなくしつつあります。テクノロジーを活用することで、これまでは難しかった、より複雑な課題の解決が可能になっているからです。そして、MaaS(Mobility as a Service)やスマートシティーといった業際領域を見れば明らかなように、もはや自社の製品やサービスだけでは、そのような真の課題解決は難しくなっています。そこで、多くの企業にとって「外部のデータを生かして新たな価値を創出する」という視点の重要性が高まっています。NTTデータでは、こうしたお客さま企業に不足しがちなデータ活用のケイパビリティーを積極的に補うためのアプローチにも力を入れています。
新田:例えばMaaSの領域なら、消費者は「買い物」や「旅行」を1つの体験として捉えていますが、これをサービス提供側から見れば、「移動」は交通機関や自動車メーカーが提供し、「目的地での消費」は店舗や施設が提供するといった具合に担い手は別々です。顧客価値リ・インベンション戦略においては、「ユーザーの真の課題」を捉えるために、自社の製品やサービスの接点だけでなく、ユーザーの体験全体を見渡すことを重要視しています。しかし、自動車メーカーが車載センサーから得られる自社のデータだけでは「乗車中」のことしか把握できません。つまり、自宅を出てどこかの駐車場に止めるところまでは追えても、降車後の行動までは把握しようがなく、カスタマージャーニーの理解が中途半端になってしまうのです。しかし、ここに人の移動を捉える「人流データ」を組み合わせれば、「移動」と「消費」をひとつながりで把握できるようになります。そこで、当社では、1.1億ダウンロードのアプリの人流データを有するunerry(ウネリー)社と提携し、MaaS領域における新サービス創出の可能性を探っています。
2020年6月にはこの人流データを活用したスマホアプリ「おでかけ混雑マップ」を当社からリリースしました(図表2)。新型コロナウイルスの感染拡大で「ソーシャルディスタンスの確保」が社会課題となる中、現在地に近いスーパーやドラッグストアの混雑状況を可視化し、混雑を回避するためのツールです。これは自社サービスの立ち上げ自体が目的ではなく、開発や運用を通じてお客さま企業のDX支援に資するケイパビリティーを獲得する活動の一環なのです。こうした取り組みはMaaS領域以外にも、「食」と「健康・ヘルスケア」を融合させた<Food & Wellness>の領域でも同様のアプローチを進めています。

さらに新たな領域に挑戦するために、自社に不足するケイパビリティーを持つ他社と積極的に協業しています。先ほど紹介した人流データのunerry社以外にも、書籍内で紹介しているデザイン専業のコンサルティングファームStar社、AIプラットフォームを提供するDataRobot社も重要なビジネスパートナーです。また現在、数千人ものデータサイエンティストを擁する米国のアナリティクス専業企業との協業も進めています。
── 個別の企業のDXサポートではどのようなプロジェクトが多いのでしょうか。
菊山:まず、全社レベルのDXを一連のプログラムとして支援するケースが多くあります。立ち上げた推進組織に伴走し、戦略の策定から実現まで一貫してフォローするわけです。その場合には、求められるデジタル人財に関する人財戦略の策定や人財育成にも携わっていきます。
さらに、新規事業の創出、CXやEXの改善、サプライチェーンの改革、製造プロセスの高度化、経営管理基盤の高度化といったDXに深く関わる多種多様な個別テーマについてもサポートするケースもあります。
このような案件を推進する際に、近年は当社のグローバルでのナレッジを活用することも多いです。欧州では特にスペインやイタリアにおいて高いシェアを獲得しており、デザインやデジタルタレントに関する知見も豊富なため、そうした海外拠点とも適宜連携するようにしています。また、日系企業の進出が多いAPAC(アジア太平洋)エリアでの案件支援も得意としています。