新型コロナであぶり出された
サプライチェーンの課題
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、世界中の企業が大きな打撃を受けている。特に感染拡大を防止するために人の集中や移動が厳しく制限されたことで、工場での生産が困難になったり、海外市場への製品の供給を停止せざるをえなくなったりするなど、調達・生産・流通という事業の根幹を支える機能に相当なダメージがもたらされた。
グローバル経済の前提が根底から覆され、サプライチェーンに及ぼした影響の規模と範囲において、史上類を見ない危機に直面していることは確かだ。ただ、パンデミックが突き付けた現実が想定を超えたとはいえ、同様の危機は常に起こりえたものでもある。
感染症の発生で生産や流通が制限を受けたのは、今回が初めてではない。地域は限定されていたが、SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)の流行は記憶に新しく、感染症の発生は今後も十分に想定される。また感染症に限らず、震災や台風のような自然災害が発生すると、サプライチェーンは分断や停止を余儀なくされる。戦争や紛争の影響も無視できず、国外拠点や海外市場へのアクセスが長期的に困難になるケースはこれまでにもあった。米中の覇権争いが激化したり、各国で保護主義的な政策が支持されたりする中、地政学的リスクはますます高まるだろう。労働コストが大きく変化し、中国を含むアジア諸国に生産を集中する戦略は常に見直しを迫られていた。