
ジェンダー平等に対する意識は高まりつつあるが、新型コロナウイルス感染症の危機により、平等への道程は遠ざかってしまった。ジェンダー平等の後退は、女性や社会に限らず、経済や企業にとっても大きな打撃となることが、マッキンゼー・アンド・カンパニーの調査研究からも明らかになっている。本稿では、同社の調査研究に基づき、ジェンダー平等に取り組んだ場合とそうでない場合の経済効果を示したうえで、コロナ禍による雇用喪失率の男女差と無給ケア急増の関係、さらにビジネスリーダーがいま取るべきアクションを提示する。
この5年間、ジェンダー平等の実現に向けた動きは停滞してきた。新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、それを後退させる恐れがある。
筆者らの分析では、コロナ禍で雇用が危険にさらされている女性の数は、男性の1.8倍に上る。世界の雇用に女性が占める割合は39%だが、2020年5月の時点で失われた雇用の54%を女性が占める。同時に、育児や高齢者の介護といった無給ケアは増加し、その負担は女性にいびつにのしかかっている。
このジェンダー平等の後退は、女性と社会だけでなく、経済と企業にとっても打撃となる。もし何の対策も講じなければ、2030年までの世界全体の国内総生産(GDP)の伸びは、男女の雇用喪失レベルが同じ軌道をたどった場合と比べて、1兆ドル少なくなる可能性がある。
これに対して、いますぐジェンダー平等を推進する行動を起こせば、2030年の世界全体のGDPは、何もしなかった場合よりも13兆ドル増えると予想される。その中間、すなわちコロナ禍が落ち着いてから対策を講じた場合、世界全体のGDPの伸びは、いますぐ対策を講じた場合よりも5兆ドル少なくなると考えられる。
国家経済へのインパクト以外にも、コロナ禍の間もさらにジェンダー平等を推進することは、ビジネスリーダーにとって強力な利益になる。
マッキンゼー・アンド・カンパニーの調査研究では、ジェンダー平等は好業績のカギとなることが明らかになっている。経営幹部のジェンダー平等が上位25%に入る企業は、下位25%の企業と比べて、平均以上の利益を上げる可能性が25%高い。
さらに現在、ダイバーシティとインクルージョンが後退している企業は、有能な人材、多様なスキルやリーダーシップスタイルや視点を得る機会が限定されることにより、みずからを不利な立場に追い込んでいる可能性がある。
ジェンダー平等が後退する流れを覆すには、何より教育、家族計画、妊産婦死亡の予防、デジタルインクルージョン、無給ケアに対する投資が必要だ。この5つの領域への公的・民間・家庭の投資は、2025年までに「いままで通り」のレベルよりも20~25%、金額にして計1兆5000億~2兆ドル増やす必要がある。
しかし、ジェンダー格差の縮小がもたらす経済的恩恵は、必要とされる社会的投資の6~8倍になると、筆者らは推測している。ただし、本稿で説明するように、こうした投資はスタート地点にすぎない。