
コロナ危機を乗り越えるうえで、企業は重要な役割を担っている。しかし、事業活動の前提が覆され、活用できる資源がより乏しくなった中、既存のアプローチには限界がある。この事態を打開したければ、非営利組織の活動に学ぶことが有効だ。非営利組織は万全とはいえない環境の中でも、やり方を工夫することで大きな成果を上げている。本稿では、企業が参考にすべき3つの方法を紹介する。
コロナ禍の時代、パンデミックが引き起こした苦境に対処するうえで、企業は重要な役割を果たさなければならないし、実際に果たすことになるだろう。
ただし、そのためには、自分たちの基盤がいかに変わっているかを認識する必要がある。インクルーシビティ(包摂性)はかつてないほど重要になり、リーダーは経済的な結果と同じくらい社会的な結果を重視するように迫られている。そして、これらを遂行するための資源は通常より乏しい。既存のアプローチだけでは、この難題を乗り切れないかもしれない。
そこでビジネスの世界は、非営利組織に新鮮なアイデアを求めるといいだろう。経営学の権威ピーター・ドラッカーが言うように、非営利組織は企業にとって、型破りだが強力なインスピレーションの源になり得る。
これは、コロナ禍のいまこそ当てはまる。主要な利害関係者と顧客が経済的な危機に直面している現状は、多くの非営利組織が経験してきた状況に重なる。
筆者がそのことにあらためて気がついたのは、パンデミックの初期のこと。渡航制限で中国に戻れなくなり、故郷でもあるインドのヴェールールに足止めされたときだ。
ヴェールールはクリスチャン・メディカル・カレッジ(CMC)病院の拠点でもある。彼らの数十年に及ぶ先駆的な医療活動は、住民のウェルビーイングを著しく向上させ、コストの安い医療へのアクセスが大幅に制限されている地域社会に、質の高い医療を提供している。その取り組みは大きな成功を収め、ビル・ゲイツ(ゲイツの財団はCMCを支援している)はヴェールールが公衆衛生で傑出した成果を上げたと言及している。
1990年にイダ S. スカッダー医師が貧しい女性と子どものために設立したCMCは、複数の専門科を持つ大規模な病院に発展。トップレベルの医学部も擁する。さらに、ハンセン病やカウンセリング、地域教育など、多様な非営利組織のエコシステムをヴェールールで育て、駆り立てて、あるいは影響を与えてきた。こうしてCMCは地域医療のパイオニアになった。
しかし、CMCの実績についてビジネスリーダーと特に関連性があるのは、3つの制約の中でどのように成果を出してきたかという点だ。すなわち、(1)社会において、ジェンダー、カースト、経済的不平等のインクルーシビティを高いレベルで実現するための複雑なプロセス、(2)高品質のサービスと手頃な価格を両立させる難しさ、(3)非営利組織としての厳しい資源の制約、の3つだ。
筆者はCMCの地域医療開発部門(CHAD:Community Health and Development)を中心に、現役や引退したリーダー、教職員、共同出資者など数多くの人にインタビューを行い、コロナ禍で社会的価値を高めようとしている企業に通じる3つの戦略を導き出した。(1)中間目標を目指す、(2)一見矛盾しているように見える緊張感を受け入れる、(3)より少ない資源でより多くのことを行う、の3つである。
CMCの地域医療の成功のカギは、1つの要因だけではなく、これらの戦略の相互関連性にある。