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コロナ禍で仕事の定義が根底から覆される中、従業員や顧客の安全を守りながらどのように事業を運営すべきか、リーダーたちは正解が見えないまま、手探りで前に進もうとしている。そこで筆者が提唱するのは、Cレベルの経営幹部に医療や科学の経験を持つメンバー、すなわち最高医療責任者を加えることだ。コロナ禍が到来すると即座にこのポジションを設置し、外部から専門家を招き入れ、迅速に対応策を講じたコンステレーション・ブランズの例を引きながら、最高医療責任者の設置はコロナ対応だけでなく、長期的な成長にも欠かせない3つの理由を明らかにする。


 2020年、死に至る可能性のある極めて感染力の強いウイルスの登場は、リーダーたちにかつて予想したこともない課題を突きつけてきた。国家のリーダーの対応は一貫性がなく、迷走している。医療業界と製薬業界を除く各業界の企業リーダーは、目隠しをされて空を飛んでいるように感じているだろう。

 ビジョンやバリュー、戦略、組織文化の大家でさえ、新型コロナウイルス感染症のパンデミックと、今後起こりうるパンデミックが突きつける未知の出来事を理解する準備ができていない。それでも企業はいま、従業員と顧客、そして大衆の健康を守るうえで重大な役割を担っている。

 不安や緊張を軽減し、安心感を取り戻すには、Cレベルの経営幹部に新たなメンバーを加える必要がある。すなわち、最高医療責任者(CMO:Chief Medical Officer)だ。

 ロバート・モンダヴィ・ワイナリーやカサノブレ(テキーラ)、コロナビールを傘下に持つコンステレーション・ブランズは、コロナ禍が到来した時、まさにそれを実行した。

 コンステレーションは、米国で急成長を遂げている大手のアルコール飲料製造・販売会社で、かねてからアジャイル(敏捷)なアプローチを積極的に取り入れ、トレンドに耳を傾け、それに沿って対応してきた。おかげで同社は、コロナ禍は流動的であり、現時点のリーダーだけでは対応できないことを迅速に認識できた。そのギャップを埋めるためには、医療や科学の経験を持つ専門家が必要だと判断したのだ。

 コンスタレーションは、最高医療責任者とそのチームの役割をどのように定義したのだろうか。

 最高人事責任者(CHRO)のトム・ケインによれば、まず目の前の課題を分析することから始めたという。飲食施設の閉鎖、開業予定の施設における厳格なオペレーションルールの確立、営業再開に向けた安全な手順とルールの確立などだ。

 最高医療責任者の仕事は、経営幹部や危機管理部門、そして人事部門のリーダーシップチームが必要としている、医療に関する助言や専門知識を提供するとともに、多国籍企業に適した多様なガイドラインに沿ったリスク評価や方針を伝えることだ。