コンステレーションがティム・マリンズ博士を最高医療責任者に指名したことは、このポジションが現在のコロナ禍に限らず、企業の長期的な成長にも欠かせない3つの理由を教えてくれる。
●従業員の健康
コンステレーションをはじめとする無数のホスピタリティ企業(家族経営のレストランから、グローバルなレストランチェーンまで)の場合、最前線の従業員はみずからを危険にさらしている。マリンズは、彼らができるだけに安全にその仕事に従事できるようにする。
だが、ほとんどの従業員が在宅勤務している組織でも、あるいは従業員が感染リスクにさらされない仕事でも、医療の専門家を社内に抱えることは、リーダーが従業員のことをきちんと考えてことを示す重要なサインになる。「社外の専門家に相談できる」だけでは、不十分だ。従業員の心身の健康は、会社が気にかけている基本的な事項であることを示す必要がある。
コンステレーションは、イントラネットで「最高医療責任者との対話」と呼ばれるイベントを開催し、従業員がマリンズに直接質問をできるようにした。ケインによれば、その狙いは「従業員とコミュニティの安全を守る最善策を理解するために、(会社は)医療専門家の見解を採用しているという安心感」を従業員に与えることだったという。
●顧客の安全
コンステレーションの場合、同社の営業地域を感染リスクあるいは感染拡大リスクにさらさないようにするためには、いつ再開するのが安全かを判断するうえで、最高医療責任者とそのチームが必要不可欠な存在だ。また、再開に向けて、ソーシャルディスタンシングに最も有効な手順を定める場合も、彼らのインプットが助けになる。
多くの情報が交錯し、日々変化する中、すべてのデータや意見を処理し、解釈して、顧客にとって最善の措置は何かを判断できる専門家がいることは重要だ。
ホスピタリティ業界以外でも、クライアントやパートナーとの対面ミーティング、製品紹介のロードショーや会議への出席をはじめとする多くの事項について、いつどのように再開するかを判断しなくてはならない。究極的には、企業のリーダーは、安全で健康を確保できる行動の条件を定める社会的責任がある。
●地域別のコンプライアンス
コンステレーションは多国籍企業であり、米国、メキシコ、ニュージーランド、イタリアに計100以上のブランドを持っている。そのため、コロナ禍にあっては、グローバルレベルでは世界保健機関(WHO)、米国では疾病予防管理センター(CDC)、地域、州、市町村の保健当局と、国や地域ごとに異なる規制やプロトコールに対応しなければならない。地域や時期によって感染レベルが異なる中、そのタスクは容易ではない。
「多くのガイドラインを最新版にアップデートし、理解して、適応させなければならない」と、ケインは説明する。マリンズは、この極めて細やかな配慮が必要とされる作業に専門性をもたらす。こうした種類のリーダーシップがなければ、たった一つのミスがPRの悪夢と高額な訴訟につながるおそれがある。
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新型コロナウイルス感染症は、私たちの仕事のやり方を根底から覆してきた。同時に、民間企業に公衆衛生を組み込む必要性も浮き彫りにしている。
過去25年にわたってワクチン開発をリードしてきたメルクのCEO、ケン・フレーザーは先日、私のインタビューに答えて、きちんとした効果のあるワクチン(世界の70億人以上に行き渡るように製造・供給する必要がある)を発見するには、非常に長い時間がかかる可能性があると語ってくれた。
組織は、自社の健康を戦略的に考える必要がある。そして、多くの企業にとってその第一歩となるのは、最高医療責任者を雇うことだろう。
HBR.org原文:Does Your Company Need a Chief Medical Officer? October 01, 2020.
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