利害関係者への配慮を
もっと制度化する

 エージェンシー理論に基づく企業統治モデルの核を成すのは、株主最優先の考え方だ。しかし、コロナ禍の経験を通じて明確に見えてきたのは、企業が機能し、さらには長らく繁栄し続けるために、すべての利害関係者層が重要だという点だった。

 新型コロナウイルス感染症の影響で、顧客を失って苦戦した企業もあった。自社の労働力を最小限のスタッフだけに減らさざるをえなくなった企業もあった。また、サプライチェーンの混乱、持続不可能な規模の債務、事業活動に必要な資本の不足などに苦しんでいる企業もあった。

 この危機が始まって以降、経営陣が取締役会に対して、それぞれの利害関係者層の最新の状況を報告することが一般的になった。そして、多くの企業の取締役会と経営陣は、社員と顧客の健康・安全を最優先にすると宣言している。一部の投資家グループも、この危うい時期に、社員最優先の行動を企業に求めてきた。

 コロナ禍は、米国の主要企業が加わる財界団体ビジネス・ラウンドテーブルが2019年に発表した「企業の目的に関する声明」の土台を成す、相互依存の論理が正しかったことを改めて裏づけた。この声明では、181人のCEOが5つの利害関係者(顧客、社員、納入業者、コミュニティ、株主)への配慮を約束し、株主最優先の姿勢を転換させた。

 コロナ危機を経験して、取締役会や経営陣は、株主(やそのほかの特定の利害関係者)がほかの利害関係者より優先されるべきだとは、ますます主張しにくくなっただろう。特定のグループの利害を常に最優先にすることなどできないのだ。

 1つの企業の歴史の中では、社員の利害を最優先にすべき時期もあれば、顧客の利害を最優先にすべき時期もある。公共の利益を最優先にすべき時期もあるし、株主の利益を最優先にすべき時期もある。それは、その時にどのような利害が問題になっていて、会社がどのような状況に置かれているかによって決まる面が大きい。

 コロナ禍の教訓をもとに考えると、取締役会はもっと積極的に行動して、主要な利害関係者層との関係に目を光らせるべきだということになる。

 たとえば、経営陣に対して、コロナ禍の下で生まれた新しい慣行を継続し、それぞれの利害関係者層ごとの状況を取締役会に報告するように求めてもよい。あるいはもっと正式な目標と報告プロセスを設けて、利害関係者の利害をどれだけ満たせているかを、長期にわたり綿密にチェックできるようにしてもよいだろう。

 取締役会は、さまざまな利害関係者の利害がトレードオフの関係にある状況で、それぞれのグループに対する義務を守り、自社の長期にわたる健全性を維持できる形で状況に対処するためにも、これまでより積極的な役割を果たすべきだ。それを目指すうえで欠かせないのは、すべての取締役が自社の目的と戦略について共通の理解を持ち、誰を自社の利害関係者と見なすか、そして、そのそれぞれに対して自社がどのような責任を負っていると考えるかの判断基準を共有することだ。

 多くの企業は、すべての利害関係者を尊重していると言うだろう。その言葉に嘘はないのかもしれない。

 しかし、ほとんどの企業の取締役会は、自社がそのような責任を果たせているかを監督したり、株主以外の利害関係者との関係でどのくらいの成果を残せているかを把握したりするための仕組みを設けていない。たとえそのような仕組みが設けられていても、そうしたテーマが取締役会の議論で頻繁に取り上げられることはない。その点は、株主の利害について取締役会が頻繁に論じているのとは大違いだ。

 利害関係者の関心事が戦略立案や企業買収に関する決定に反映されることがあったとしても、それは正式な制度に基づくものでなかったり、あくまでも例外的なものだったりする。取締役会に提出される分析の中に、このような要素が含まれることは少ない。

 コロナ後の時代には、取締役会の監督・意思決定プロセスで、利害関係者(特に社員)の視点と声を尊重するよう求める圧力が強まるだろう。自社がすべての利害関係者との関係で好ましい行動を取っていると示すことも求められるようになる。それに、外部からのプレッシャーとは関係なく、取締役会がコロナ禍の教訓を学んでいれば、自発的にそのような行動を取りたいと考えるだろう。