エーザイはなぜ
特許切れの局面を乗り越えられたのか

 およそ10年前、エーザイは正念場を迎えていた。2009年度の売上高は8031億円と過去最高だったが、全体の約4割を占めていた認知症治療薬「アリセプト」が特許切れ間近だった。一部の投資家からは「世界最悪のパテントクリフ」(特許の崖)と叫ばれ、株価下落の引き金となる空売りも仕掛けられていた。

 そんな中、外資系証券会社に勤務していた筆者に声がかかった。筆者は、2009年秋にIR部長として入社し、その後、CFOになった。エーザイの内藤晴夫CEOは「いままでうちの会社には簿記の概念しかなかった。企業価値[注1]の考えを入れてもらいたい」と激励して迎えてくれた。

 CFOの責務は、株主価値を継続的に高め、株主に対する受託者責任をまっとうすることにある。以来、筆者はエーザイの企業価値を守る「番人」となった。