コロナ禍で激動の一年でした。新年号は、いま、大きく、激しい潮流となっているESG(環境、社会、ガバナンス)に対する経営と投資の特集です。
ESGという特集テーマにピンと来ないという方は、特集5番目の論文から是非お読みください。「日本の資本主義の父」と称される、渋沢栄一を高祖父に持つ渋澤健氏が、「いま、なぜESG経営か」を、歴史的背景とともに平易に解説しています。
特集1番目の論文は、環境や社会に配慮したESG経営を行うことで企業が得る実利を示します。
消費者満足が高まり売上げが増加、従業員のやる気が向上して生産性アップ、投資家や金融機関もESG経営への投融資を優先するので低コストで資金が獲得可能、さらに、同様の志向の株主から支持を得られ、長期戦略が可能になるなどと論じます。
そのうえで、ESG経営の実践法を詳述。ESG潮流を前に、何をしたら社会に認めてもらえるのかと戸惑う経営者に、具体的戦略を提言します。
今日、ESG経営にとって、最大の障害は取締役会です。そう論じるのが特集2番目の論文です。理由は、取締役会が多様性に乏しく、株主第一主義に凝り固まっているため、と調査で明かします。
その壁を打破する原動力は、近年注目を集めるようになり、本誌でも2度特集を組んだ「パーパス」(企業の存在意義)です。パーパスをいかにつくり、戦略と資金配分に結び付け、ESG経営を実践していくか。このフレームワークを提示し、いくつかの企業の活動からその使いこなし方を示します。
新しい考え方は、その実践が評価されて初めて、社会に定着します。特集3番目の論文は、信頼性が確立された財務データ評価のように、ESGを評価する基準づくりに世界が試行錯誤している様子や、ESG経営の成功と失敗の両事例を紹介しています。ESG評価の進歩の方向性が見えてきます。
さらに一歩進んで、ESG経営が企業価値の創造につながることを、論理的に示し、モデルをつくり、実証データで検証した成果を示す画期的な論考が、特集4番目です。
エーザイ専務執行役CFOかつ早稲田大学大学院客員教授でファイナンス理論の専門家である柳良平氏は、自社のデータを用いてESGに関わる取り組みが長期的に企業価値を高めることを論証します。その要諦は、ESG重視の財務戦略の実行と、パーパスの重視、投資家との徹底対話です。
特集5番目は、投資家かつ長期の視点での論考です。論点は3つ。第1に、冒頭述べた通りESG潮流の経緯と、国連決議のSDGs(持続可能な開発目標)との関係、第2に、社会課題を民間資金の活用で解決する「インパクト投資」の動き、第3に、今後の日本がどうあるべきかについて、渋沢栄一の「論語と算盤」の視点から論じています。
経済格差や地球環境危機が深刻化する中、見過ごされてきたリスクが増大し、企業経営は株主利益向上だけを追求すべきという「株主資本主義」が見直されています。
従業員や社会などステークホルダー全体を考慮した経営を行うべきという考え方が、社会、そして投資家に広がり、ESG経営を促す流れです。次ページでは、本特集について、さらに考えて行く際に参考になる文献を紹介いたします。