教訓2
データの詳細さは、時に正確性を損なう

 ファイザーとビオンテックが報道発表を行った2日後の11月11日、ロシアの国立ガマレヤ疫学・微生物学研究所(モスクワ)が発表を行った。同研究所で開発を進めている「スプートニクV」ワクチンは、4万人を対象にした臨床試験により、92%の有効性が明らかになったとのことだった。

 その5日後の11月16日には、米国のモデルナが発表を行い、3万人以上を対象にした臨床試験により、自社のワクチンが94.5%の有効性を示したと明らかにした。

 この2つのケースでも、ワクチンの有効性はファイザー/ビオンテックのケースと同様の方式で示されているが、異なる点もある。報道発表の言葉遣いとパーセンテージがいっそう詳細なものになっているのだ。ガマレヤ研究所はワクチンの有効性を「90%以上」ではなく「92%」と言い、モデルナは「94%」ではなく「94.5%」と言っている。

 なぜ、このような変化が起きたのか。

 確かなことは言えないが、ガマレヤ研究所もモデルナも、パーセンテージを詳細な数値で発表すればデータの信頼性が高まり、ファイザー/ビオンテックのワクチンより優れているという印象を与えられると期待したのだろう。

 実際、メディアの報道は、その通りの結果になった。たとえば、ベルギーの新聞『スタンダルド』は、こう記している。「米国のバイオテクノロジー企業モデルナのワクチン候補は、ファイザーのものより有効性が高い」

 このような状況で詳細な数字を示された場合には、警戒したほうがよい。細かい数値でデータを示すというのは、しばしば用いられる説得術だが、これに惑わされると、データを正しく解釈して、賢明な決定を下す妨げになりかねない。詳細な数値でデータを示すことにより、正確性が犠牲になる場合があるのだ。

 詳細な数値データに魅力を感じる人は多い。たとえば、グローバルなブランドコンサルティング会社インターブランドの調査によると、マクドナルドのブランドの金銭的価値は世界8位の42,816,000,000ドル。この金額は前年比で6%減少したという。

 こうしたデータは有益な情報に思えるかもしれない。しかし現実には、このような細かい数字でブランドの価値を把握したり、ランクづけしたりすることは不可能だ。それが可能だと思っている人は、劣悪な意思決定をすることになる。

 では、どうすればよいのか。

 ビジネスとは、つまるところ社会科学だ。そして社会科学とは、すべてきれいに説明がつくものではない。その点を受け入れよう。今度、何かの推計値を示された時は、データの細かさとデータの質の高さを混同しないよう気をつけたほうがよい。

 それよりも、点推定の信頼性を正しく認識するために範囲(レンジ)で見たほうがよい。ワクチンの有効性が70~95%の範囲の間、ブランドの価値が200億~700億ドルの範囲の間だとわかるほうが、検討しているテーマについて正しく理解できる。