Jeremy Pawlowski/Stocksy

妊娠や出産の喜びと苦労は周囲が理解しやすく、会社からの支援が充実していることは多い。だが、不妊はどうだろうか。きわめてプライベートな問題なのでオープンに語られることが少なく、そのつらさは他人から見えにくい。その結果、不妊治療中の社員は十分なサポートを得られず、特に女性社員のキャリアに深刻な影響をもたらす。優秀な人材を採用するためにも、そうした人材をつなぎとめるためにも、リーダーや人事マネジャーは適切な支援を提供すべきである。


 時刻は朝7時。看護師がサラの腕の静脈で採血針を刺せる場所を見つけようとして、悪戦苦闘している。腕は注射針を刺した跡だらけだ。サラが朝の採血でこのクリニックを訪れるのは9日連続。治療が始まって4年目になるが、いつ治療が終わるのかまったく見当がつかない。

 サラは、癌を患っているわけではない。ほかの重病に罹っているわけでもない。子どもをつくるために、クリニックに通っているのだ。

 不妊治療を始めた時は、すぐ効果があるものと思っていた。サラは、不妊治療を受けていることを上司に打ち明ける気持ちになれず、ストレスの重い仕事をたくさん抱え込みすぎないように気をつけ、好ましいポストへの異動のチャンスがあった時も異動を希望しなかった。不妊治療を最優先にしていた。

 このようなケースは珍しくない。不妊に悩むカップルは増えるばかりだ。カナダでは、その割合はカップル6組のうち1組に上る。それにもかかわらず、ほとんどの企業の制度や取り組みは、望み通り子どもが生まれた社員向けのものに終始している。主として、育児休業の期間、育休明けの職場復帰、育児と仕事の両立といったことが重んじられてきた。

 妊娠と出産は周囲の人たちの目にもわかりやすく、たいてい祝福されるのに対し、不妊は表面にあらわれにくく、あまりオープンに語られない。多くのカップルにとって、不妊はきわめてプライベートな事柄であり、時として非常につらい経験だ。

 親しい友人や親族にも打ち明けづらい。まして、同僚や上司との会話で話題にするのは、自分の生活の最もプライベートな部分を人目にさらすに等しいように思えて、躊躇せずにいられない。不妊症患者支援団体ファーティリティ・マターズのエグゼクティブ・ディレクター、カロリン・ドゥベの言葉を借りれば、「不妊は寝室でしか語られない」のである。

 特に女性は、キャリアへの悪影響を恐れて、みずからの不妊治療について職場で語ることをためらう場合が多い。英国の支援団体ファーティリティ・ネットワークUKの調査によれば、不妊治療を受けている女性の50%は、上司が深刻にとらえすぎることを心配して、不妊治療について上司に打ち明けていないという。将来のキャリアに悪影響が及ぶことを懸念して上司に話していない人も40%を上回る。

 長期間にわたる不妊治療は、女性とそのパートナーに対して、情緒面、肉体面、経済面で深刻な負担になりかねない。リーダーがこのような負担を理解し、不妊治療を受けている社員を支援して包摂する環境をつくるために、取ることのできる行動がいくつかある。

 社員が人生のさまざまな段階でキャリアを成功させられる支援を提供できる企業は、経験豊富で大きな潜在能力を持った人材を引きつけ、つなぎとめることができる。